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「ナナリーっっ!!!」
スザクの乗るランスロットに大切に抱えられるようにして飛び去る姿にルルーシュは必死に手を伸ばし、名を呼ぶが二人の間は縮まる事無く寧ろ開いていくばかり。
頭の中に響くのは、間違っていると思いますと言った凛としたナナリーの声。
世界が壊れる音がした。
暖かい世界
次々と帰ってくる騎士団員をすでに収納されたものたちは格納庫で出迎えていた。
残るはカレンとゼロだけ。
四聖剣のメンバーの仙波が藤堂を守って戦死したことはつい先ほど通信が途切れた事と藤堂自身がそう語っていたことで知らされた。
作戦がうまくいったかもわからず、不安げな表情で二人を待つこの場の空気は重たい。
けれどもこの場が重たい空気になっているのは何もそのことだけが原因ではなかった。
以前なら騎士団の活動には興味も示さずに、部屋で寛いでいるかピザを食べているか、のどちらかの行動しか見たことの無かったC.Cがこの場に顔を出し、何か考え込んでいるような険しい表情をしていたのだ。苛立ちを隠そうともせずに腕を組む姿は、誰も声をかけることも近寄ることも出来ない。
先日ゼロによって救い出されたばかりのメンバーにはそれが珍しい光景に見えていた。
そんなC.Cに変化が見られたのはカレンから飛行船から弾き飛ばされたゼロを無事に助けたという通信が入った時だった。
「っ!」
C.Cが目を見開いて勢いよく顔を上げる。
そしてすぐに自分の胸元を勢いよく掴んだかと思うと口元に空いているもう片方の手を当てたのだ。
「お、おい!」
そんなC.Cの行動に慌てた玉城が声を上げれば何事かと他の団員たちは視線を向ける。
「C.C?!ど、どうしたんだ?!」
驚いた扇が焦ったように声を上げるのと同時にC.Cの目から涙がこぼれた。
「・・・なんでも、ない!」
「なんでもない分けないだろう?!」
君が・・・そんな声にC.Cが眉を寄せる。
止まらない涙は止めることもできず溢れ出す。そんな姿にオロオロとする扇。ほかの者は呆然とその光景を眺めている。
それをC.Cは視界の端で捉えながら胸の内に沸き起こる感情に耐えることに必死だった。
息も出来ないような胸の苦しさも、胸の内に溢れる悲しみも全て!・・・あぁ、早く帰って来い!
そう心の中でC.Cは叫んで、苛立たし気に勢いよく壁に手をついた事で起きた音にざわめいていた数名のメンバーが口を噤んだ。
そうして静かになった空間に割って入ってきたのは、カレンの操る紅蓮弐式だった。
両手を前に突き出すような形のまま片膝をつく姿で停止した。
カレンは手のひらの上に収まっているゼロを気遣うようにゆっくりと両手を操る。団員たちの方からは、紅蓮弐式にゼロが凭れかかるように座っているのが見えた。
「あ、おい!C.C!」
弾かれる様に顔を上げて苦しそうな表情で走り出すC.Cを止めるように近くにいた団員が手を伸ばすがそれは届かなかった。
前かがみ気味なためC.Cの長い髪の毛で表情は窺うことは出来ない。けれど苦痛に表情を歪めているだろう事はいまだに片方の手が胸元の服を掴んでいる、その手元から窺うことが出来た。
「おい。」
手のひらから無事に降りることの出来る状態だというのに、全く動こうとしないゼロに向かってかけたC.Cの声は短い言葉だけだと言うのに涙に濡れていることが分かる。
声をかけられているというのに、ゼロは彼女の声に反応を示さなかった。
「おい!」
先ほどよりも強く放たれたその言葉にも、ゼロは反応を示さない。
そしてもう一度、C.Cは短く呼んだ。
「おい、ゼロ!」
「・・・シー・・・ツー・・・」
俯いているゼロが呼ばれて、少しだけ顔を上げ、小さな声でそれに答える。その声はいつもの威厳のある声とは程遠かった。
そんなゼロにC.Cはその場に膝をつき、ゼロの仮面に両手を添えた。
「・・・辛いのか。」
「違う。」
C.Cの言葉に先ほどと、うって変わってゼロは即答した。
けれどもそんなゼロに対してC.Cは鼻で笑って両手はそのままに、無理やり上を向かせた。
「そうでなければどうしてお前はそんな風になっている。私に嘘をつけると思うなよ。
・・・こんなにもお前を苦しめることが出来るのは・・・世界でたった一人だろう?」
「何故。」
何に対しての言葉なのか。二人を見つめる騎士団メンバーにはその言葉の意図は分からない。
けれどもそれが会話として成り立ってしまうのが、目の前の二人なのだと、どこか深いところで繋がっているように見えるそんな二人をカレンは悔しそうに睨みつけた。
「忘れたのか?私たちは一年前の、あの契約をした時から繋がっているということ。」
「・・・っ」
「お前が生きているか死んでいるか。そして何を思って何を感じているのかも、私には分かるのさ。」
「だから・・・」
「あぁ、そうさ。だからどうして、などと聞かずとも分かってしまうんだよ、私には。何より、誰よりもお前を一番近くで見てきた私だからな。それが無くともすぐに分かるぞ。
この息も出来ないような苦しさと、目の前が真っ暗になるような悲しみと、世界から突き落とされたような絶望をお前に与えることが出来る奴なんて、私の知る中であの子だけだろう。」
そう言って小さく、今ではな・・・と付け足した。その言葉にゼロが小さく反応したことに気がついたものはいない。
「お前をそんな風にすることなんて、あの子以外にいるはずも無い。」
そう言って笑みを作るC.Cだったが、涙は止まっていない。その為か、無理やり笑っているようにも見える。
「そのあの子に何を言われた?」
「・・・間違っていると、言われた。」
その言葉に、ゼロが先ほどの言葉を思い出して仮面の中で顔を歪める。それと同時にC.Cも胸の痛みに肩を揺らして顔を顰めた。
「・・・ゼロは間違っていると。そしてもっと違った方法で、優しい世界が出来ると・・・そう言われた。」
「なっ!」
「そ、そんな事を言われたんですか?!」
「それが出来ない奴がいることを分かっていて言っているのかよ!」
ゼロの言葉に周りで聞いていた団員たちが思わず声を上げた。
その声に同調するように大きな声を出して意見を言うものはいなかったが、互いに視線を交わしあい、気に入らないと眉を寄せるものが殆どだった。
「違うな。」
「ぇ・・・?」
「違っているだろう?本当の理由はそれじゃない。お前は私に嘘をつく気か?」
「嘘など言ってどうする。私は、俺は、あの子に・・・っ!」
そう言ったゼロの仮面をC.Cが無理やり剥ぎ取った。
「なっ!C.C!」
「黙れ。」
そう言ってC.Cは剥ぎ取った仮面を頬リ投げた。遠くの方でカランと仮面が床にぶつかる音がする。
目にも留まらぬ速さで奪われた仮面に目をやる事も、声を上げる事も忘れ、団員たちはC.Cの目の前にいる、ゼロの格好をした青年から目が離せなかった。
日本人よりも艶やかな黒髪と、そのせいでより一層白さの際立つブリタニア人特有の白い肌、そして印象的な紫色の瞳。けれどその瞳は今は涙で濡れ、光を失ってしまっていた。
人形のような美貌を持った青年はC.Cを見上げる。
「私には分かると先ほど言っただろう?お前が本当に絶望を感じたのは、あいつに守られるように、あいつに助けを求めたあの子に絶望したのだろう?!」
「っ!!!あぁ!そうだ!・・・けれどあの子にも考えと言うものはある。
それを捻じ曲げてまで連れてくることは俺にはできなかった。俺がゼロになることを望んだように、あの子にも望むものがある。
だけど・・・必死にランスロットに手を伸ばすあの子に、俺は拒絶されたような感じがしたんだ・・・あの子は俺の全てだった・・・あの子が望まないのなら、俺はゼロでいる意味がない。生きている意味が無い・・・!!」
細い肩を震わせて、俯いたゼロは涙を流す。ハラハラとゼロの瞳から零れ落ちる涙は黒い衣装を濡らしていく。
そんなゼロに声をかけたのが紅蓮二式から降りてきたカレンだった。カレンはゼロに走り寄り、思いっきり肩を掴んだ。
「・・・何言っているのよ!ルルーシュ!」
「・・・カレン・・・」
ルルーシュは覇気の無い目をカレンに向けて小さな声で彼女の名前を呼ぶ。
「どうして生きるとか、そういう話になるのよ!あなた自身に意思は無いわけ?!全てあの子の為あの子の為って、そんなのナナリーが喜ばないわよ!」
「・・・じゃあどうすればよかったんだ!俺は生まれながらにして生きてなどいないんだ!元から生きてなどいないのなら、誰かの為に生きるしか無いだろう!」
「だったら!私たちの為に生きなさいよ!そんなに理由が欲しいなら、騎士団の為に、日本人の為に、ブリタニアと戦って!」
「っ!」
「必要としていない人の為に死のうと考えるのなら、必要としている私たちの為に生きて。」
「どうして・・・」
カレンのそんな言葉にルルーシュは分からないといった表情で小さく呟く。
「私たちは仲間でしょ?貴方も大切な騎士団メンバーの一人よ。大切な仲間がそんな風になっているなら、励まし支え合い解決策を一緒に考えるのが仲間ってモンでしょ。ねぇ?」
その言葉にルルーシュが見渡せば、周りを囲んでいる騎士団のメンバーは笑顔で頷いた。
「しかし・・・」
それでも首を縦に振ろうとしないルルーシュに思わずイラッとしたカレンが頬を張り倒そうと右手を構えたその時、ルルーシュの目の前からどいていなかったC.Cが俯き気味のルルーシュ両頬に両手を添えて思いっきり上を向かせ、自分とだけ視線が合うように無理やり固定させた。
間近に迫ったルルーシュの顔に向かってC.Cはニヤリと笑うとそのまま口を開いた。
「なんだ、お前は理由があれば生きられるのか。それならばこいつの言うとおりに、こいつらを理由にすれば良い。けれどそれすらも難しいようだな。ならば私を理由にすれば良い。」
「はぁ?!」
遠くの方でカレンが素っ頓狂な声を上げたがルルーシュは目の前のC.Cによって顔を固定されていてそれに視線をやる事が出来なかった。
「・・・」
「ちょっとC.C!」
C.Cの言った意味がよく理解できなかったルルーシュは何も言葉を口にすることが出来なかった。呆けたルルーシュを面白そうに眺めるC.Cは隣にいるカレンを無視して次の言葉を口にする。
「私は長い間孤独を味わってきたからな。愛に飢えている。そんな私と契約を結べ。私がお前の愛を受けてやろう。・・・その代わりに私がお前に愛を注いでやる。そして私の願いを叶えろ。」
「C.C・・・」
どこまでも傲慢に言い切ったC.Cにルルーシュはあきれた表情でため息をつく。
「C.C!あんたさっさと離しなさいよ!それになんなのよ!それは!」
何様な訳?!と叫ぶカレンに一度もルルーシュから視線を外さなかったC.Cはそこでようやくカレンに顔を向け、笑みを作りいつもの決まり文句を唇に乗せた。
「私はC.Cだからな。」
その時の表情は憎たらしいほど人を馬鹿にしたものだったと、後にカレンは言う。
「お前はもっと周りに目をやるべきだ。お前を大切に思っている者はこんなにも沢山いるのだぞ。」
「・・・あぁ。」
優しい声でそういうC.Cはいつの間にかルルーシュの両頬から手を離していた。
ルルーシュはそう言って、ゆっくりと自分の周りにいるメンバーを見渡して、目を閉じた。
「あぁ、そうだな。」
そして目を開ければ、先ほどまで瞳に光の無かった壊れた人形のようなルルーシュはそこにはいなかった。そんなルルーシュの気持ちが反映されるように、C.Cの目にも止まる事のなかった涙は溢れていなかった。
「ルルーシュ。」
「なんだ、C.C。」
「私はやさしい世界が欲しい。私の為にやさしい世界を手に入れろ。」
「待ちなさいよC.C!貴方一人抜け駆けなんか許さないんだから!ルルーシュ!私たちも同じよ!私たちもやさしい世界が欲しいわ!私たちと一緒に優しい世界を手に入れましょう!」
「必死だな。」
「なっ!そ、そんなんじゃ!」
顔を真っ赤にして首を振るカレンにルルーシュは笑ってそれを眺める。
気がつけば、胸のうちに溢れていた悲しみも、目の前が真っ暗になるような絶望も、なくなっていて。
心の底から溢れる暖かい気持ちに思わず笑みが零れるほどに、こんなにも近くに暖かく自分を思ってくれる存在があることにルルーシュは今更ながらに気がついた。
それに気がついた瞬間、無意識に口をついて出ていたのは、とても短い言葉だった。
「ありがとう。」
心の篭ったその言葉は小さいものだったけど、その場にいたメンバーの耳にちゃんと届いていて、誰もが皆ルルーシュに笑みを浮かべた。