04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
「こんにちは。ナナリー皇女殿下。」
少しだけ高めの男の声に気がついてナナリーは振り返った。
先に手を放したのは。
ナナリーは政庁の屋上へと来ていた。
以前ユーフェミアがこの庭園は本国にあるアリエスの離宮に似ていると言っていたとスザクから聞かされ、ナナリーは思わず足を運んでみたくなったのだ。
ナナリーはいまだに目が見えるようにはなっていなかったが、この場はなんだか兄の存在を近くに感じることが出来そうで、空いた僅かな時間を利用して一人でやってきた。
沢山の花の香りで溢れるそこはブラックリベリオンの際に壊されたが、現在の庭園は以前と変わりなくその場に存在していた。
舗装された道をゆっくりと車椅子を進めていた、そんな時、先ほどの男の声がナナリーの耳に飛び込んできたのだった。
「・・・誰、ですか?」
首をかしげて人の気配の方に振り返るナナリー。
「僕?」
「・・・はい、貴方は・・・」
この場所は滅多に入れる場所ではない。それはナナリーも知っているから、もしかしたら警備をしている兵士なのかもしれないと考えた。
けれども自分たち皇族にそう易々と声をかけてくる人は多くない。自分の知り合いなのだろうか。
けれども目が悪いナナリーは代わりに耳が良くなった為に一度聞いた声を忘れることは無い。だから初めて聞く男の声にナナリーは困惑していた。
「僕の名前は、ロロ。」
「ロロ・・・さんですか?」
名を聞いても誰だかわからないナナリーは小さく首をかしげた。
そこで男はニヤリと口元を吊り上げる。
「うん、そう。僕はロロ・ランペルージ。」
「ランペ、ルージ・・・?それは・・・」
弾かれるように頭を上げるナナリーだったがロロはそんな彼女を無視して小さくため息をつきながら話を続けた。
「・・・ねぇ、ちょっと最近、許せないことがおきたんだ。とても・・・許せそうに無いようなことが、ね。」
「ちょっと待ってください。ランペルージと言うのは・・・」
「何でも、僕のこの世で一番大切な人がどうやら存在否定されてしまったようなんです。
あぁ、残念なことに、僕の大切な人は僕以上に大切だと思う人がこの世界には存在していましてね、僕の大切な人の世界は、その人中心に世界が動いているといって差し支えない程なんですよ。」
「あの・・・」
「・・・僕の大切な人はその人を思い出すとすごく柔らかい笑みを浮かべるんです。僕がこんなに近くにいるのに、僕にその人物を重ねて笑いかけるんだ。だけど良いんです。僕はそんな風に笑うその人を見ているのも好きだ。僕にその笑顔を向けてもらえないのはすごく悲しくて憎たらしくて仕方がないけれど、そんなところも含めて僕はその人が大好きだ。」
「その・・・」
「だけど最近、僕の大切な人の前に久しぶりにその僕の大切な人の大切にしている人物が現れたんだ。そしてその人物から僕の大切な人はなんて言われたと思う?」
ナナリーには見ることがかなわなかったが、ロロはその話をしている間、終始表情は柔らかいものが浮かんでいた。
けれどもナナリーに対して質問をしたときの表情は冷たいものに変わっていた。
それにはナナリーも気がついて、思わず小さくロロの名を呼んでいた。
「・・・ロロさん・・・・・・?」
「ねぇ?なんて言われたと思う?ナナリー皇女殿下。」
「・・・分かりません。」
「・・・分からないですか。」
「すみません。・・・あの、ロロさん。」
「・・・なに?」
「ロロさんのファミリーネームは・・・その、ランペルージと言うんですか・・・?」
「うん、そうだよ。何か問題はある?僕はロロ・ランペルージ。アッシュフォード学園に通っている。」
「そ、それでは・・・!ルルーシュ・ランペルージは、知っていますか?!」
ナナリーはアッシュフォード学園に通っているような少年がどうしてこの政庁の屋上に足を踏み入れているのかという事よりも自分の兄の存在を確かめるほうが先行していてその異常性に気がついていなかった。そんなナナリーの質問にロロは再び口元を吊り上げて、見下ろすようにナナリーの前に立った。
「あぁ・・・うん、知っているよ。」
「ルルーシュ・ランペルージはっ!・・・元気でしょうか?」
「元気だよ。今日もいつもと同じ時間に起きて、朝食のパンとスクランブルエッグを食べて学校に向かって、そして少しだけ退屈な授業を受けて・・・あぁ、今日はブリタニア史があって面倒だって言っていたかな。それから放課後は生徒会室によって仕事を片付けてから、自宅に帰った。うん。いつもと変わらないでしょ。」
「・・・ロロさん・・・?」
「だって、僕はいつも一緒にいるんだもの。詳しく知っていて当然でしょう?」
「な、んで・・・貴方は・・・?」
「あぁ、恋人なんかじゃないからそんな風に緊張したりしなくていいですよ。」
「そんなこと・・・」
あからさまにホッとした表情のナナリーの姿がロロには面白く、ますます笑みを深くした。
これを言ったら君はどんな顔をするんだろう?
「・・・だって僕、ルルーシュ・ランペルージの弟だし。」
「・・・っ!」
「・・・どうしたんですか・・・?ナナリー皇女殿下・・・?」
「・・・そ、んな・・・そんな事、あるはずがありません!だって、私の・・・私の・・・」
「皇女殿下?」
「そんな・・・あ、そう!そうです。貴方の思い描くルルーシュ・ランペルージときっと違っているんです!私の言ったルルーシュ・ランペルージに弟なんていませんでした!ロロさん、その方は黒髪に紫の瞳の方ではないのでしょう?だって、私の知るルルーシュ・ランペルージの兄弟は、弟でなく妹でした!」
「アッシュフォード学園にはルルーシュ・ランペルージは一人しかいません。そして彼は黒髪に紫の瞳。それが僕の兄。」
「嘘です!嘘ッ!だって、ルルーシュ・ランペルージは!私の・・・!」
「・・・あぁ、ごめんね。そういえば僕の兄さんは君のお兄様でもあったんだ。あはは、すっかり忘れていたよ。」
「・・・ならロロさん、貴方は何者なんですか?!」
「僕も兄さん、ルルーシュ・ランペルージの弟だよ。まぁ、僕たちは血の繋がった兄弟ではないけど。君は知っているでしょ。他に義理の兄弟は数え切れないほどいるけれど正確に血が繋がっているのは自分たちしかいないって。」
「・・・ロロさんはいったい何をしに・・・?」
眉を寄せたナナリーがロロを見上げる。
そんな僕が何をしに現れたかって?そんなの決まっているじゃないか。
「さっきも言ったはずでしょう?最近許せないことがあったと。ナナリー皇女殿下はそれがなんだか分からないと仰いましたね。」
「・・・」
「兄さんの中にある世界の中心は貴方だ、ナナリー皇女殿下。現在・過去・未来全て貴方を中心とした思想から成り立っている。けれどそんな兄さんに貴方はなんと言った?」
「私はお兄様と会ってはいません。何を言っているんですか?」
「・・・あぁそうか。気がついていなかった。そういうこと。それでは兄さんが余りに可哀想だよ。」
「どういうこと・・・ですか?」
「あんなにも愛情を注がれて、あんなにも甘い声で囁かれて。
それなのにナナリーは気がついていなかったんだ?
どこかの騎士様と似ているよね。二人揃って同じことをして・・・無くしたときに気がつくんでしょ?
それじゃ兄さんがあまりにも可哀想だよ。」
「どういうことなんですか?!お兄様はっ!お兄様は?!」
「どうしてあれだけ近くにいたのに気がつかなかったんだろうね?
兄さんがゼロになったのは、ナナリーが優しい世界を望んだからだというのに。」
「そ・・・!」
ナナリーは自分がゼロに言った言葉を思い出して顔色を悪くした。
「でもそのおかげで兄さんは僕を選んでくれた。先に捨てたのは君だよ、ナナリー皇女殿下。返してくれといわれても、返さないから。」
「わ、私はゼロがお兄様だとはしらなくてっ・・・!」
「そういってももう遅い。
枢木スザクによって皇帝へと売られて、記憶を操作されて一年間監視され続け、記憶を取り戻してから自分の近くにナナリーがいないことに怒りを覚えて君を取り戻そうとゼロに戻った兄さんが、君の言った言葉にどれだけ傷ついたと思う?」
「でも、でも・・・わたしはっ!私はゼロのやり方は間違っていると思ったから・・・!だから・・・そんな、どうしたら・・・!」
「あぁ。それなら急病で倒れたことにでもすれば?そうしてさっさと兄さんの目の前から消えてよ。君がいると兄さんが動きづらいだけ。
だから皇女殿下は静かに本国ででも暮らしていなよ。邪魔なんだから。
きっと兄さんのことだから全てが終わったときに君に否定されていても、助けにいくんだろうね。
でもどうなんだろうね?一度君が手放した兄さんは以前と同じように笑いかけてくれるかな?
きっと兄さんは笑いかけるだろうけど、心の中で傷ついているんだろうな。
それを僕が許すはずがないことは君ももう気がついているでしょ。
僕は兄さんを譲る気はないから安易に近づけると思わないで。
兄さんを見ていなかったナナリーなんかに渡すものか。
僕だけの兄さんなんだ。僕だけ。兄さんを傷つけるお前なんかが兄さんに優しくしてもらう権利は無い!」
「っ!」
「さようなら。ナナリー皇女殿下。次に兄さんを傷つけるようなことがあったら、今度は忠告だけじゃ済まないよ。」
会議の予定の時刻は過ぎている。それなのにやってこないナナリーにスザクは政庁内を探し回っていた。
最後の場所として、限られたものしか入ることの許されない庭園へと足を踏み入れたスザクは中央に置かれた車椅子に座る少女の姿を見つけ小さく息を吐いた。
「ナナリー!」
けれども少女は振り向かず、どこか元気がないように見える。
「ナナリー・・・?」
「・・・スザク、さん・・・」
顔を上げたナナリーは泣いていたのか目元が赤く染まって、声は少しだけかすれているようにも感じられた。
「どうしたの?!何があったんだ!」
「いいえ、いいえ。何もありません。」
「何かあったんだろう?!ナナリー!」
「いいえ、いいえ!ただ、自分の愚かさに気がついただけです。」
「ナナリー!」
ナナリーの名を呼ぶスザクを避けるようにナナリーは室内へといける唯一の入り口へと車椅子を動かした。
振り切るように車椅子を進めるナナリーを追おうと足を踏み出したスザクにナナリーは小さく振り返った。
「スザクさん、貴方も早く気がついてください。気がつくのに長く時間がかかってしまえばしまうほど、それは深い後悔へと繋がりますから。」
「何・・・を・・・」
「ごめんなさい。私は自分の意思よりも、大切なものがあることに気がつきました。だから、さようなら。」
そう言って出て行ったすぐ後に、エリア11新総督が急病により本国へと帰ることがエリア11全体に緊急速報として伝えられた。
もし僕らと共にする未来が来るならば
一番近くで傷つけたことを後悔すればいい
僕は君が兄さんを傷つけたことは一生忘れない
兄さんがナナリーを許しても、僕はナナリーを許さない