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「ナナリーまで・・・」
「兄さん・・・」
「どうして、いや、違うな。そんな理由など分かりきっている、か・・・」
中庭で力無くベンチに腰を落とし、無理をして笑っているルルーシュをロロはただ見ているだけしかできない。
傷ついている。
兄さん。兄さん。
兄さんのそんな顔、見たくないよ。
大切なのは、貴方だけ
珍しく、この新たに騎士団本部の置かれた中華連邦の建物内にゼロの姿があった。
団員を解放してからも、滅多に顔を出すことが無いゼロが今日は久しぶりに来ていることもあり、多くの者が彼を取り巻いていた。
そんな中、カレンが大きな音をたてて部屋に入ってきた。
「カレン?」
扇が名を呼ぶがカレンはそのまま扇に答えず、まっすぐとゼロのほうへ歩いていく。
そして目の前までくると見上げるように睨みつけた。
「どういうことよ。これは、何?!」
そう言って新聞をゼロの前に叩きつける。
ゼロの周りにいた団員たちはなんなのか覗き込み、そこに書かれていることを読み取った瞬間皆一様に驚く。
号外と書かれた文字と共に大きく一面を飾るのは、一人の少女の姿。
薄い柔らかそうな波打つ茶色の髪を持った少女。けれどもその閉じられたままの瞳と車椅子に座る姿は、障害があることが目に見えて分かる。
「エリア11新総督。ナナリー・ヴィ・ブリタニア。これ、どういう意味なのかしら。」
「…」
「黙ってないで答えなさいよ!貴方、まだ私たちに秘密にしていることがあったのね!」
目の前に置かれた新聞に視線を向け、黙ったまま何も答えないゼロにカレンは、胸倉を掴んで問い詰めようと手を伸ばした。
しかし、それはゼロのところにたどり着く前に、何かによって妨害された。
「なっ!」
まさか自分の手が叩き落とされるとは思っていなかったカレンは思わず目を見開く。
気がつけば目の前には、薄茶の髪に紫の瞳を持つ少年がゼロとカレンのあいだに割り込み睨みを利かせていた。
「っ・・・!!」
僅かにゼロが息を呑み、驚きのあまり目を見開いたことに気がついた者はこの場にいない。
「誰っ?!」
この場所にそう簡単に入ってくる事など、出来るはずがない。
以前よりもセキュリティは徹底及び強化されているこの場所に、明らかにブリタニア人だと思える容姿の少年がたった一人現れた。
衝撃と共にすぐさまその少年に対して素早く銃を構えたが、少年はそれに怯えることもなくその場にいる騎士団メンバーを睨んだ。
手にしているのは一つのナイフ。どう見ても弱そうに見えるのに、背筋に冷たいものが走る。
「兄さんに、触れないでくれませんか?」
「…!」
ゼロを背に立つその姿はまるでゼロを守っているよう。ゼロに危害を加えるとは思えないのに、警戒を解いて銃を下ろす気にはなれない。
『兄さん』とゼロをそう呼んだことに騎士団はざわめいた。
「ゼロ、の弟・・・?」
「ロロ・・・どうして、ここに・・・」
ゼロの呟きで、知り合いであることが証明された。
名前を呼んでもらえたのが嬉しかったのか、冷たい視線は一瞬で満面の笑みに変わると振り返り、ゼロを抱きしめた。
「兄さん・・・僕・・・」
何かを言おうと口を開いた瞬間、カレンが我に返り顔を歪めて口にした言葉によってその続きが紡がれることは無かった。
「嘘よ・・・嘘!あなた、弟なんかいなかったじゃない!どうなっているのよ!」
その発言に他の騎士団メンバーは驚き、カレンに視線を向けるが、当のカレンはそんな視線には繰れずにゼロの弟である目の前の少年を睨みつけた。
カレンの答えにゼロが答えるよりも早く、ロロがその言葉に反応した。
「違う!僕は兄さんの弟だ!弟なんだ・・・っ!」
「何をっ!」
「違うっ・・・」
ゆるゆると首を振り、真っ青な顔をして何度も言葉を繰り返すロロ。
カレンはそんなロロの姿に思わず口を噤む(つぐむ)。
「僕も・・・」
「・・・ロロ」
「僕だって・・・!」
「ロロ」
「っ!」
ゼロの優しい声音に大きく見開かれた瞳を不安げに揺らし、顔を上げるロロ。
優しく頭を撫でられ、ロロは抱きつく腕の力を強めた。
「お前は俺の弟だ。以前そう言っただろう?俺たちが兄弟だと思っていれば何も問題など無い。」
「・・・うん・・・うん、兄さん。ありがとう。」
「・・・彼はロロ。私の弟だ。彼に危害を加えることはこの私が許さない。」
その言葉に、団員たちはいまだにゼロに抱きついたままのロロに視線を向け、そこでようやくロロに向けられていた銃は下ろされた。
けれどもいまだに腑に落ちないカレンはゼロに向かって声を上げた。
「でも、じゃあ!このナナリーはなんなのよ!あんなに・・・!」
「それ以上口にすることは許さない。」
「・・・っ!」
いつの間にかゼロから離れカレンの方を向いて、始めと同じようにナイフをカレンの首元に突きつける。
そうしたロロの行動が全く見えなかったことにカレンは息を飲み、額から顎にかけて汗が流れた。
「貴方は知っているのでしたら、それ以上口にして良いことか悪いことなのかも判断がつくはずでしょう?」
「・・・っそうね。悪かったわ。驚きすぎてそこまで頭が回らなかった。」
このまま口にすれば、ゼロに対して騎士団内の不信感が膨れ上がるだけ。
ただでさえ戦場を離れた理由を言わないゼロに対して不信感を抱いている者がいるのに。
そしてそれは騎士団の幹部だけならまだしも、こうした大人数のいる場所でしていい話ではない。
すぐに身を引いたカレンの行動に満足そうに笑みを浮かべてロロは首筋に当てていたナイフを離した。
「・・・どうして、だっけ?僕も動かなくちゃいけないって、いつまでも迷っていられないって、思った。
だって、いつまでも迷っていたら兄さん、僕を捨ててしまう・・・僕を置いて行ってしまう。そう思ったんだ。そう思ったら、すんなり答えは出た。違う、答えなんか始めから出ていた。
だからここに来たんだ。だって僕の居場所は、兄さんのいる場所。僕を認めてくれた、兄さんのところ以外に僕の居場所なんか無い。」
「ロロ・・・」
「・・・兄さん悲しんでいたでしょ?ナナリーが総督だって。あの枢木スザクが来てから。あの電話を受け取った日から。
だから決めたんだ、もう兄さんに悲しんで欲しくない。僕も騎士団に入って、僕が兄さんを悲しませる全てから守るんだ。
こんな僕を認めてくれた優しい兄さんが、どうしてまた悲しまなくちゃいけない?」
「それは・・・」
「兄さんが、ナナリーを取り戻したいのなら手伝うし、枢木スザクが邪魔だというのなら、殺す。」
ロロのその言葉に何人もの騎士団メンバーが目を見開く。そこでようやく、ロロの恐ろしさの意味を理解する。
ロロの言うことに偽りが無いからだ。彼がそういうならば、それは確実に実現させるだろうから。
「僕は僕の持つ全ての力を持って兄さん、いや・・・ゼロを守る。」
右目に手を当てひっそりと笑ってから振り返り騎士団員を見渡し、口を開いた。
「誰にも、邪魔はさせない。そして前に進むのみ。振り返ったりなどしない。だって、そんなものに意味はないから。そうでしょ?」
「あぁ。そうだ。」
ロロの言葉に肯定したゼロに不信感を抱いていた何人かが思わず視線を向ける。結果が全てだと、以前ゼロが口にしていたこと言っていたことを思い出す。
「貴方たちがもし兄さんを悲しませるようなら、僕は貴方たちも許さない。枢木スザクのような裏切りは、僕が端から潰していきますので。そのつもりでこれからよろしくお願いします。」
ゼロの隣に立って微笑むロロ。
この日、心強くも恐ろしい人物が騎士団に入団した記念すべき日となった。
優しい兄さん。
僕が守るから、僕が傍にいるから、僕が傷つけるものを全て全て切り捨てていくから・・・
だからもう泣かないで。