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願い事は・・・
今日の授業は歴史だった。
ちょうど近代に入ったところか。
いつもルルーシュは教師が入ってきて礼をとったと同時に夢の世界へと行くので実際どこまで進んでいるのかは知らなかった。
黒板の前に立つ教師の話をチラッと聞いただけでそう理解するルルーシュ。
歴史の授業で行われるのはブリタニア史で、そんな歴史は皇族だったルルーシュは小さい頃に叩き込まれたせいもあって
何も見ずにスラスラと言い淀む事もなく建国から現在までを述べることが出来るのがルルーシュの特技であり、自慢をしたいわけではなかったがある意味自慢でもあった。
なぜか今日はそんなに眠気も起きなかったので、以前スザクが何気なくやっていたペン回しをして暇でも潰すことにした。
いつだったか、生徒会室で作業をしている時、スザクの手元にルルーシュは釘付けになった。
どうやってやるのだと聞けば「え?これ?簡単だよ?」と何でもないかのように笑って回し始める。
微笑みのために目をつぶっているスザクが手元も見ずにすごい速さでクルクルと回している事に、思わず声も出なかったのだ。
それから何度も練習を試みるも、一向にうまくはなっていない。
「またやってる。ルルーシュってば器用だけど不器用だよね。」
あきれたような隣の席のスザクの声を無視して回していると、教室のドアが思いっきり開かれた。
「失礼。」
そう言って入ってきたのは第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニア。
帝国の宰相を務める男は先日現れたクロヴィスよりも優しい金の髪と水色に近い紫の瞳を細めて教壇に立つ教師に微笑みかけた。
「少しだけ邪魔をするよ。」
「い、いえ…」
そう言ってシュナイゼルは教室内を見渡し、そして見つけた。
「ルルーシュ!あぁ!ルルーシュ会いたかったよ!」
その声に思わず回していたペンを落としてしまった。
大きく両腕を広げて机の間を縫うようにこちらに近づいてくる。思わずルルーシュは床に落としたペンを拾い上げペン先をチェックする。
駄目だ。曲がってしまっている。やはりペン先を出して回したのがいけなかったか。
それとも0.3ミリのペンだったのが悪かったのか。それともデジャブかと思うほど同じような現れ方と台詞が俺の調子を狂わせるのか。
けれどその思考をもしスザクが聞いたとしたら、「全てだよ。」と笑って言いそうな事ばかりだった。
「申し訳ありません。シュナイゼル殿下。どなたかと間違われていますよ。」
「そのはずはない。私の弟のルルーシュだ。この間クロヴィスの言葉を認めただろう?」
それに私がお前を見間違えるはずがないだろう?
そう言って白い手袋に包まれた手を差し出すシュナイゼル。
目の前に突き出された手には一度も視線を向けずにルルーシュは再びペンケースからもう一本ペンを取り出すと徐に回し始めた。
チッ、聞こえていたのか。あの捨て台詞を言うんじゃなかった。
一番面倒くさい人に話がいってしまった。そうルルーシュはペンを回している右手を見た。
こういうときに限ってなぜかペン回しがうまく続いている。
以前現れたクロヴィスの一件は何とかルルーシュは誤魔化し、クロヴィスとは何の関係もないことを主張した。
しかしそれはその場を言い逃れることにしかならず、あの日から結構立っているというのにいまだに『ルルーシュ=皇族』という説は消えていない。
もう潮時なのだとルルーシュはこの間来たクロヴィスのときに感じていた。
腹をくくったルルーシュは回していたペンを止め、ガタンとわずかに耳障りな椅子の引きずる音をさせ、立ち上がると優雅にその場に跪いた。
「お久しぶりです。
神聖ブリタニア帝国第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアでございます。」
そういったルルーシュの言葉に教室にいた生徒と教師は思わず開いた口を閉じるのも忘れ、ルルーシュの姿に釘付けになった。
ただ一人、シュナイゼルだけはそんなルルーシュの姿に思わず笑みを零した。
「今日はどういった用件でいらしたのでしょうか?シュナイゼル殿下。」
「・・・・・・・・・」
顔を上げずに口調も直さず、礼を取ったままの格好でシュナイゼルに問うルルーシュ。けれど一向にその答えは返ってこない。
思わず下を向いた状態で眉間にしわを寄せたルルーシュは不振に思って、思わず「殿下?」と声をかけるが、返ってこない。
わずかに顔を上げ視線を向けると、この世の終わりとでも言うような、大きく見開いた瞳と暗い表情をしたシュナイゼルがいた。
「殿下…?」
「・・・・・・・・・・・・・・ルルーシュ。」
ポツリと呟く姿は普段メディアで見かける第二皇子とは異なっている。
「・・・・・・・まず、礼は取らなくて良い。畏まった敬語も必要ない。私とお前の仲だ。」
「・・・はい。」
シュナイゼルの言葉に何故か黄色い悲鳴が小さくあがったのに思わずルルーシュは教室内に視線を向けた。
しかし目の前の皇子には聞こえなかったようだ。先ほどよりは顔色も良くなっている。
「それでルルーシュ。・・・・前のように呼んではくれないのかい?」
「は?」
「以前のように『兄様』とは・・・呼んでくれないのかい?」
「・・・・・」
こいつ、いったい何しに来たんだ。
今度はルルーシュが黙る番だった。
シュナイゼルの意図が全く読めず、ルルーシュは混乱していた。
「いえ、私が殿下をそう呼ぶことは・・・その・・・色々と・・・憚られます。」
ただ単に、ルルーシュがそんな風に呼びたくなかっただけだ。
けれどもシュナイゼルはそんな言葉に屈しなかったようで、コレならどうだろう?とまた提案してきた。
「君がそういうなら、近所のお兄さんと言う設定にでもしておこうか。
これなら私を『兄』と呼ぶことに全くおかしなところはないだろう?それに実際に昔は近所に住んでいた。これは事実だ。
と言うことでルルーシュ。私の事は「兄様」と呼ぶこと。返事は?」
「はい、・・・え?!ちょ!どういうことですか?!設定ってなんなんですか!殿下!」
思わず返事をしてしまったルルーシュは言われた意味を遅れて理解し、慌てて声を上げた。
「兄様」
「・・・・・・・・シュナイゼル兄上」
「・・・・・・・・仕方がない。許可しよう。何なのか、だったね?それはルルーシュが憚れるといったからだろう?不満なのかい?」
「大いに不満です!」
「けど、そうしなければ呼んではくれないだろう?」
「どちらにしても呼びたくありません。」
「私をルルーシュは『兄』と呼んではくれないのだね。」
「そんなことよりも、何しに来たのですか。」
「ルルーシュに会いに来た。」
「そ、それだけ・・・ですか?」
あっさりとした答えに自分を連れて帰るものだと少なからず考えていたルルーシュは思わず聞き返してしまった。
「あぁ、そうだよ?弟に会いに来るのに何か理由が必要かい?」
「・・・・・・」
「あえて理由をつけるとするならば、お前に『兄』と呼んでもらいに来た。」
「・・・・・・・・・・・・それだけですか?」
大きく笑顔で頷くシュナイゼルにルルーシュは信じられない、と凝視してしまう。
それからすぐに悲しげに眉尻を下げてルルーシュを見下し口を開いた。
「クロヴィスのことは『兄上』と呼んだのだろう?悔しいではないか。
・・・私もお前が死んだと聞いたとき、何も出来なかったことを後悔しなかった日はない。
そんなお前が生きていたと聞いたとき、どれだけ嬉しかったか。お前にはわかるかい?」
「・・・」
「安心しなさい。お前を連れ戻そうなどとは思っていないよ。
しかし、何か困ったことがあったらすぐに言いなさい。私が出来る限りのことをしよう。」
「・・・・・・シュナイゼル兄上・・・」
そう言ってシュナイゼルはルルーシュの髪を梳く。
向けられる暖かい視線に思わずルルーシュからも笑みがこぼれた。
「では、ブリタニアの崩壊を。」
「それは私が皇帝になるまでもう少し待ってくれないかな?」
(えぇー!)