04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
「ゼロ!遅かったじゃないか!」
そう言ってソファから立ち上がったルルーシュは、ゼロに向かって笑みを浮かべ手を振った。
「・・・・なんでここにいる。」
いつもより声を低く言葉を紡ぐゼロにルルーシュは小さく首を傾げる。
「何でって・・・C.Cに遊びにおいでっていわれたからかな?」
「C.C!!」
「なんだ。別に良いではないか。こいつが黒の騎士団に何か不利になるようなことをしたわけではないのだし。
こいつも喜んでいる。それに私も楽しい。」
仮面を被っているために表情が見えるわけではなかったが、最大限に怒りを醸し出しC.Cを睨んだゼロだったが彼女には全く効いていなかった。
そんな二人の脇でルルーシュが悲しそうに視線を床に落とす。
「俺はゼロに、会いたかったんだ・・・」
「・・・っ」
僅かに息を呑んだように見えたが、そのまま何も言わずにゼロは二階にある自室へといってしまった。
バタンと扉を閉める音がした後、ルルーシュがC.Cに顔を向ける。
「C.C・・・」
「安心しろ。あいつも別にお前が嫌いだからああいった態度をしているわけじゃない。言われることに慣れていないだけさ。」
「・・・」
「まだ時間は有るだろう?焦ることは無い。」
「・・・そうだな・・・これからだ・・・」
そう言ったのはいつだったか。
それなのに・・・
それなのに!
あぁ、何てことだろう。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
こんなことになるのなら、もっと早く行動に移していればよかった。
後悔してもすでにそれは過去。
もう、どうすることも出来ない現実に、ルルーシュは両手で顔を覆った。
「・・・あぁ、行かなくては。」
かけがえの無い存在 後編 B
黒の騎士団は、合衆国日本の宣言後、政庁へと攻め込んだ。
コーネリア率いるブリタニア軍は黒の騎士団に押され気味な状態へと追い込まれ、ついに政庁が落ちるかどうかと言うところまで追い詰めた時、ゼロの突然の前線の離脱によって黒の騎士団は脆くも完璧といえた体制も呆気なく崩れてしまった。
黒の騎士団本部の置かれたアッシュフォード学園では、ゼロの行方を捜す声が飛び交い、混乱は最高潮に達していた。
そんな時、本部の置かれたクラブハウスの入り口が開け放たれた。
「誰だ?!」
学園上空には第二皇子の所有するアヴァロンがいることもあって、黒の騎士団員でないものが侵入してきたのかと警戒し、振り向けば、そこには以前から度々見かけることがあった少年の姿があった。
少年は俯き、漆黒の髪に隠れて瞳の色は窺えないが、それが宝石のように美しい紫色であることを団員たちは知っていた。
少年の名は、ルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。ブリタニア帝国で枢機卿という帝国内第二位の地位についている少年だった。
そのルルーシュが、なぜここにいる?
ゼロの知り合いだからといってそう簡単に入ることの出来ない場所であるはずなのに。
「ゼロはどこだ?」
「・・・っ!お前!どうしてここに?!」
「・・・答えろ。ゼロはどこにいる?」
いつもと纏う雰囲気の違うルルーシュに、黒の騎士団のメンバーは息を呑んだ。
誰もが跪きたくなるような、そんな声音をもって、ルルーシュはこちらへと近づいてくる。
誰かが息を呑む。その瞬間、あんなにも騒がしかった本部内は静かになった。
「答えろ。」
そういうとルルーシュの目が赤く光る。目の前に対峙していた団員はその言葉に背筋を伸ばし、ルルーシュに素直に答えた。
「・・・あ・・・ゼロ・・・・・・?」
それは異様な光景だった。
視線はぼんやりと、ここではないどこかを見るような目で、うわごとの様に言葉を放つ。
それを周りにいる団員はただただ呆然と眺めることしか出来ない。
サラリと髪の毛に触れるように右手で自らの左目を触れる。
「っ・・・何も知らないのか。」
「ちょっと待て!お前!今、何をした!」
「どいてくれないか。俺は忙しいんだ。」
「そういうわけにはいかねぇよ!どうしてお前がここにいるんだ!そう簡単に入れるわけがねぇだろ!」
「俺は俺だからな。・・・C.Cはどうした?あぁ。ガウェインに乗っているのか。」
似たような台詞を、今この場にいない愛人だと囁かれた少女から聞いたことがあると、頭の隅で団員たちは考えていた。
ルルーシュはそのまま目を閉じると独り言を呟く。
「・・・なんだと?神根島に・・・?それで・・・だからといって!
・・・最悪だ。どうして足止めが出来なかったんだ?あぁ、違う。俺だってそうだ。いつだって奴をどうにかすることなんか出来たはずだ。」
頭を振るとサラサラと艶やかな黒髪が揺れる。
苛立ちながら振りかえるとルルーシュは団員に命令をした。
「お前たちはそのまま作戦を遂行させろ。
何があってもブリタニアには屈するな。ゼロのいない間に壊滅されてみろ。俺が許さない。」
「ちょっと待て!だったら、お前がブリタニアに一言言えば良いじゃねぇか!撤退しろだの、停戦だの!」
「そんな事。俺が、この場でするとでも?この場に、ゼロがいないのに?」
ハッ!と鼻で笑いルルーシュは傲慢な笑みを浮かべた。
「俺は、ゼロがいないのなら、黒の騎士団に思い入れは無いんだ。ゼロがいるからこそ大切な場所だった。
ゼロ以外、俺にはどうだったいいことだ。この世界が、どうなろうと。」
それだけ言うとルルーシュはその場から、消えた。
その場から、瞬きをするよりも早く消えたルルーシュの立っていた場所を団員達は呆然と眺めていた。
情報を頼りに、ルルーシュが神根島に現れたときには遥か遠くの方で機械音が聞こえる。
けれどルルーシュはそんなことに構っている暇は無いとでも言うように視線さえくれずに洞窟へと足を向けた。
静かな、僅かに入る光だけが頼りの、薄暗い洞窟の中で倒れているものがいる。
それを視界に捕らえた瞬間、ルルーシュは歩んでいた足を止めた。
本当は駆け寄りたい。けれどもその人物を中心に広がるものによって一瞬ルルーシュは頭の中が真っ白になってしまっていた。
ピチャン、と水音が洞窟内に響く。
投げ出された腕からそれは伝い、指先から地面へと落ちる。
「・・・ぁ・・・・・・」
その音にルルーシュは我に返り走り出し、撃たれたまま放置されたゼロを抱き上げた。
つけられていた仮面はゼロの脇で割れて転がっている。
真っ青な顔色をしたゼロの、レイの頬にルルーシュは空いているもう片方の手を、酷く優しい手つきで添えた。
「レイ・・・レイ・・・!」
額と胸の辺りから血が溢れ出し、一向に止まる気配を見せないことにルルーシュも青ざめる。
何度目かの呼びかけに、レイは閉じていた瞼を持ち上げ、ルルーシュへと目を向けた。
「ルル・・・-シュ?」
「レイ!今、今助ける!だからっ!」
「ど、して・・・」
「しゃべるな、レイ!」
「ル、ルーシュ・・・」
けれども、ゼロは何か言おうと必死に口を動かす。
そのたび、ゴホッと咳をして口元から血が溢れる。その咳も段々と酷くなり、かすれるような変な呼吸の仕方を始める。
「レイッ!もう少しだ、今すぐに本国へ!あそこを通れば、すぐに!」
振り向くように視線を向けて示したその場所には大きな扉が一つある。
けれどその言葉をレイは首を緩く振って拒否をする。
「もう、いいんだ・・・ルルーシュ。俺は・・・それよりもナナリーを・・・!!ナナリーはV.Vに連れて、かれて・・・っ!あそこの・・・」
「あそこ?!だって、あそこは本国に繋がっている!本国にナナリーがいるのか?!」
「俺よりも、ナナ、リーを・・・っ!」
「いやだっ!俺がレイを置いていけるわけが無いだろう!俺はレイを連れてかえる!レイも、本国で治療して、元気になって、それで、今度は三人で過ごそう?
もうあそこには何かを言うようなヤツはいない!後はあいつだけだ。あいつなんて、俺とレイが手を組めばすぐに玉座から引きずり落とすことなんて簡単だ!だからっ!」
「・・・ルルー・・・シュ・・・この間は、悪かっ・・・お前の手を・・・とって・・・いればよかっ・・・」
僅かに開かれていた目も、ゆっくりと瞼が下ろされる。レイの手も、ルルーシュの手から滑り落ちた。
「レイ・・・?なぁ、レイ・・・?どうしたんだよ、ほら、すぐそこなんだ。そこから、行けば、あっという、間に・・・だからっ・・・!」
溢れた涙がレイの頬に落ちる。
そのまま頬を伝い落ちる様は、まるでレイが本当に涙を流しているようで。
「なぁ、うそだろ?・・・レイ?だって、これからだったじゃないか・・・!レイッッ!!!!!あ、あぁ・・・あぁぁっあああぁああぁぁあぁぁぁっっっ!!!」
ピクリとも動かないレイをルルーシュは抱きしめた。
その瞬間ルルーシュの瞳が赤く煌き、ギアスの力によってレイから流れ込んでくる膨大な情報量をルルーシュはその脳に一瞬で受け止めた。
そこに見えたのは、苦悩するレイの姿と、己のしてしまったことに立ち向かうレイの姿と、そして・・・
二人は赤い光に包まれる。その中で唯一揺らめくアメジスト。今はここに無いものを睨みつけるように、彼方に視線を向けた。
「許さない・・・っ!」
真っ白な神殿の中でルルーシュは身支度をするといつも必ず向かう部屋へと入った。
天井から入る光が照らす下に置かれた台の上に横たわるのはルルーシュの弟、レイ。
エリア11を騒がせた反逆者であった彼の遺体はそのまま埋葬されること無く、こうして神殿の中に保管されていた。
現在のレイの姿は、洞窟内でルルーシュが抱き上げたときのような血に染まった姿はしておらず、また、ゼロの格好もしていない。
死の悲しみによって暴走したルルーシュの力はレイの細胞を活性化させ傷を治し、そして時を止めた。
本来そのままにすれば朽ちるはずの体も、その力により、まるで本当に生きてそこに寝ているような感覚を抱かせる。
「レイ・・・」
何度も何度も騎士団に顔を出して遊びに行った。
いつも本国にいるときでさえ、C.Cから話は聞いていた。だから、レイが枢木スザクに執着していることはしっていた。
初めて出来た親友だと、以前尋ねたときに本人から聞かされていた。それにレイがゼロだと知った後もルルーシュは資料を読み返した。
どうしてレイがゼロになったのか。原点は枢木スザクだということも調べていて知った。
それほどまでに大切な親友。大切なものを任せられる程に、レイにとって大切な。
だから信じられなかった。
ルルーシュは二階の自室に上がってしまったレイに視線を向けてから隣にいるC.Cに視線を向ける。
「それで、本当なのか?」
そう聞けば、雑誌に向けられていたC.Cは視線も外さずに、けれども呆れを含んだ笑みを浮かべて頷いた。
「あぁ。あのお飾りの・・・いや、お前にとったら義理の妹になるのか。ユーフェミアはナンバーズを騎士にした。
お前のほうにこそ、そういった情報が早く入ってくるのではないのか?」
「いや、特にはそういった話はされていない。
俺たち皇族・・・皇帝の子供は100を超えるほどいる。一応名前と顔は覚えさせられるが、実際に会ったことのあるものなど、数えるほどしかいないんだ。
騎士を持てるというのは皇族にだけ与えられた特権だとしても、一々皇族の騎士を覚えていることなんか出来ないし、宮廷内の話題として取り上げていたら切りが無いさ。」
「そういうものか。」
「それで、その騎士とやらは・・・」
「あぁ、そうだ。」
その言葉を受けてルルーシュは以前見せられた写真に写る彼を思い描く。
茶色の癖の強い髪と、緑色の瞳をした、どこか日本人離れした少年の姿。
幸せそうに微笑むナナリーを挟んでレイと反対側に立っていた。
「・・・そうか。C.Cからの話を聞いて飛んできたが・・・だいぶ精神的にきているようだな。」
「あいつは所構わず・・・空気を読まないからな。まぁ、知らないからと言うこともあるだろうが。」
「・・・それでもあきらめられないんだろう?」
「そうらしいな。」
失敗だった。
このときすでに行動に移しておけばよかったのだ。
それこそ強引に、レイが嫌がろうが自分が嫌われてでも・・・
そこまで考えて、ルルーシュは一つため息をついて気持ちを切り替える。
この場所で、後悔はいらない。レイがしようとしたように、それを含めてこれからの行動が大切なんだ。
そのまま視線を戻して、以前と同じように目の前に横たわるレイの頬を優しく撫でた。
「お前、本当にやるのか?」
「当たり前だ。俺はこの1年。決して忘れはしなかったさ。」
突然現れた女の声に、ルルーシュは動揺もせず、振り返ることもせずに答える。
コツコツと女は近づき、レイの横たわる台の端に腰を掛けた。
「そうか。・・・それにしても、本当にお前たちは似ているな。」
「当たり前だろう?俺はレイの双子の兄なのだから。」
暗い笑みを浮かべるルルーシュを楽しそうに緑の髪を揺らした女は眺めた。
やはりというか、黒の騎士団はブリタニア軍にあっけなく敗れてしまった。
最大の理由は、指揮をしていたゼロが途中でいなくなったからだという噂が巷で流れているが、本当の事かどうかは分かっていない。
けれど『ゼロが死んだ』という事、それだけは確実なものとして公表され、エリア11に住むブリタニア人を安心させる材料となっていた。
ブリタニア軍が窮地を脱することが出来たのも、一重に第7世代ナイトメア、ランスロットのおかげとされている。
それから1年。その功績を称え、勲章を授けられる式に出席するため、枢木スザクは本国へと足を踏み入れた。
「すまなかったね。こちらでもいろいろとあったもので。こんなに遅くなってしまった。」
「いえ、自分は構いません。寧ろこうして勲章を授けられるなど・・・自分は、自分の仕事をしたまでです。」
目の前を歩く背中にそう答えた。
一歩前を歩くのは、このブリタニア帝国宰相第二皇子シュナイゼル。
スザクの所属する特派はシュナイゼルのものなのだと、スザクはロイドから聞かされていた。
今回直属の上司であるロイドは本国には来ていなかった。
こうして自分の道案内にシュナイゼルがあたるなど、恐れ多いことだと初めてそれを聞いたときスザクは思わずロイドを恨んだ。
「そういえば、枢機卿猊下とはどういった方なのですか?」
今回、スザクに勲章を与える人物は皇帝だとばかり思っていた。
けれど実際は違うことをついさっき知ったのだった。
「あぁ、猊下は・・・」
そこでシュナイゼルは足を止めた。
何事かと思ったスザクも同じように足を止めて背筋を伸ばし、頭を下げる。
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
シュナイゼルの突然の敬語にスザクは内心驚いた。
今シュナイゼルが挨拶した相手は、帝国の宰相で、次期皇帝と噂されるシュナイゼルよりも、目上の相手と言うことだ。
けれども声はどこか若い。そして自分には聞いたことのある・・・そう感じた。
「もうすでにエリア20は体制も整ったと聞きました。今回はいつもより早かったのですね。シュナイゼル殿下。」
「えぇ。猊下に早くご報告したかったので。」
「貴方のこれからの活躍を楽しみにしています。」
『猊下』、その言葉にスザクは反応した。
じゃあ・・・目の前のこの人が、今日・・・
けれど何故か頭の中で危険だと、警戒音が鳴り響く。
「あぁ、ご紹介が遅れました。彼が、エリア11で活躍した第7世代ナイトメア、ランスロットのパイロット枢木スザクです。」
「彼が・・・顔を上げなさい。」
そう言われて、ゆっくりと、顔を上げる。その間も、頭の中ではさらに音が大きく鳴る。
振り払うように頭を左右に振りたかったが、それはこの場では許されないと、心の中でストップがかかる。
まっすぐと、完全に頭を上げたとき、そこにあったのは・・・
「ルル・・・?」
その言葉に、ルルーシュはふわりと微笑んだ。
「始めまして?枢木スザク。」
「・・っ!!なん、でっ!!だって、だってお前は!俺がっっ!!!!」
復讐だ!
同じ顔で微笑んでやろう?
お前の記憶からお前の見てきたレイを呼び起こさせてもらおう。
お前がユフィの復讐に駆られたように、俺もレイの復讐をさせてもらうよ。
お前が絶望を感じるのはまだ早い。