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宮殿内を歩いているとジノはよく見慣れた後姿を見つけ、走って背中を叩いた。
「よっ!スザク!」
「ジノ。」
「帰ってきていたんだ?今回のところはどうだったんだよ?まーお前のことだからちゃっちゃっと終わらせてくるだろうなーとは思っていたけどな。」
「いつもどおりだよ。・・・ごめん。俺これから行くところがあるから。」
「おう!いつものところだろ?またなー」
視線を一度スザクの手元に向けて、すぐに視線を戻して手を振った。
スザクの向かう方角に、あの姫の宮殿がある方だということを確認してからジノは踵を返した。
終わりの無い喜劇
「失礼します!枢木スザクであります!」
「どうぞ。」
中からかわいらしい声が聞こえ、一拍置いてからスザクは扉に手を掛けた。
正面にある大きな机を挟んで向こう側には薄茶の波打つ髪を持った少女がいる。
「お久しぶりです、ナナリー皇女殿下。」
スザクがそう言えば、花が咲いたように可愛らしい微笑を浮かべ少女は口を開く。
「お久しぶりです。貴方が無事に帰還したこと、心より嬉しく思っています。」
「勿体無きお言葉。」
そう言ってスザクが礼を取ればナナリーはクスクスと笑い声を上げる。
その声に厳しい表情を作っていたスザクも和らいだ表情を浮かべた。
「お元気そうで何よりです。スザクさんなので無事だとは思っていましたが・・・それでもこうして無事に帰ってきていただけたことに安心しました。」
「そんなに信用無いかな?約束しただろう?」
「そうですね、ちゃんとここに帰ってきてくださると、約束してくださいましたよね。」
「でも、待っているだけと言うのは、辛いんですよ?」
「それは・・・ごめん。」
「いいえ、仕方のない事なので誤らないで下さい。」
ね?と首を傾げ微笑むナナリーにスザクは苦笑を漏らすしかなかった。
「仕事は順調?」
「えぇ、最近は今まで与えられなかったこともやらせていただけるようになりました。
きっと、お姉さまのように戦場を駆け回れたら、良いのでしょうが・・・私には・・・なので、私はこうして頑張るしかないのです。」
「・・・ナナリー・・・でも成果は少しずつ出ているじゃないか。」
「えぇ。」
お姉さま、その言葉にスザクは僅かに眉を寄せた。
けれどもそれは目の見えないナナリーに分かるわけも無く、何の疑問も思わずに笑みを浮かべたままだった。
「今日もお姉さまのところへ・・・行ってらしたのでしょう?僅かですが、お花の香りがします。これは・・・お姉さまのお好きだったお花・・・」
「・・・あぁ、そうだよ・・・」
そこで耐え切れなくなったスザクは視線を外した。
彼女は、何も知らない。
知っていれば、こんな表情を浮かべはしないだろう。
現在のナナリーの名前はナナリー・リ・ブリタニア。姉にコーネリア、ユーフェミアと続き、3姉妹の末の姫という設定だった。
彼女は、それが真実だと思っている。
彼女の中に、本当の事など、名前しか残っていない。
親も違う、兄弟も違う、生きてきた記憶すら違っている。それが今自分の目の前にいるナナリーだった。
「いつもありがとうございます。」
「え・・・?」
「スザクさんがお姉さまを忘れないでいてくださって・・・きっと、お姉さまも喜んでいます。」
「っ・・・そう、かな?」
「そうですよ。」
最愛の兄のことを忘れさせた。
彼女の身に起きたことを忘れさせた。
それが彼女にとって幸せなのだと、あんな奴の妹であることよりも、心優しい慈愛の姫の妹であることのほうが幸せであるのだと、スザクはそう思っている。
そして確かに今の彼女は幸せそうに笑う。
記憶を消されたことで、自分の目と足は生まれたときからのものだと思っているし、彼女はエリア11で亡くなった姉であるユーフェミアの死を嘆いている。
これでいいんだ。彼女はそうして笑っていることが合っているんだ。
そうやって何度も思うのに、どうしだろう・・・
真っ白な彼女の微笑みを見ると、自分は何も悪いことはしていないのに、なぜかいつも罪悪感に駆られる。
けれど彼女の元に通うことを止められないのは、ナナリーにもういない彼女を重ねているからなんだろうとスザクはなんとなく思っていた。
「ねぇ、スザクさん。」
「・・・どうしたの?」
「はい。」
「これ・・・」
真っ白の紙で折られたそれは・・・
「鶴ですよ。願い事を叶えて下さるんですよね。
スザクさんが教えてくださって・・・私、一生懸命練習したんですよ。綺麗に折れたと思うのですが・・・どうですか?」
「あ、あぁ・・・うん。とっても上手だ。」
「スザクさんを守ってくださいますように。そう思いながら折りました。」
彼女の笑みは人を癒すものであるはずなのに。
ナナリーの微笑む姿にスザクは息苦しさを覚えた。
違う。違う・・・違うんだ!
その言葉は喉元でつっかえて出てくることは無い。言っても、ナナリーにはわからないことだからだ。
そこでドアをノックする音がして、部屋に入ってきたのはコーネリアだった。
「ナナリー、ちょっといいか?」
「えぇ、大丈夫です。」
「あ、じゃあ僕は行くよ。」
「あ、はい。よければその鶴、貰ってください。」
「あ・・・うん。」
そう言ってコーネリアとかわるように部屋を後にしたスザクは、手にした折鶴を手のひらに乗せて近くの壁に背中を預けた。
「ナナリー・・・」
酷く、胸がざわついた。
「スザクさん、スザクさん、スザク、さん。」
何度か名前を口にして、フフッとナナリーは微笑む。
「酷い人。卑怯な人。嘘つきな人。」
そう言って伏せていた瞼を持ち上げる。そこから覗くのは薄い紫色をした瞳。
波打つ髪を揺らして前のめりになり、両手に力を入れればピンク色のふんわりとしたドレスを揺らして立ち上がった。
「一年前の貴方はそう言ってましたね。私のお兄様に。」
コツ・・・とヒールを鳴らして歩き出す。
どこにも、今まで車椅子を使っていたような様子を見せない。
「苦しいですか?辛いですか?悲しんでは・・・いませんよね。」
クルリと一つ回転すればふわりと揺れるドレス。
窓から入る月明かりに照らされて床に映る影も躍る。
「自分が醜く映りませんか?」
両手を月に向かって大きく広げる。
「あぁ、この空は、あのエリアにも繋がっているのですよね。
お兄様も見ているのかしら。ナナリーはお兄様とまだ繋がっています。」
一年前に、C.Cと契約をした。
そうすることで手に入れたギアスはナナリーの目と足を動けるようにしてくれた。
記憶を置き換えられる前に自分でかけて自分自身を封印した。時間で元の自分に戻るように。
「だから・・・」
安心してください。
お兄様がこちらに来られる頃にはスザクさんを・・・
「お兄様、ナナリーは今からお兄様に会うのが楽しみです。」
喜劇はもう始まっている。
貴方が気がつく時が来たら、最大限に笑って差し上げますから。
舞台の上には貴方一人。
観客は、もちろん私。