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「この学園は俺の支配化に・・・!」
気が付けばルルーシュの手にしていた銃はその手に無く、そして突きつけていたはずの相手も目の前から消えていた。
カチャリと音を立ててルルーシュに向けロロが銃口を突きつけた。
視線だけ向ければ、悲しそうな表情をしているロロに気がつく。
「ルルーシュ・・・兄さん・・・ねぇ、どこまで思い出したの?」
見えない記憶
「ねぇ、思い出したんでしょ?ゼロのこと、黒の騎士団のこと、ギアスの事・・・」
「・・・ロロ。」
ロロがそう言えばルルーシュは睨みつけるように眉を寄せた。
あぁ、思い出してしまったのか。
思い出したんだ。
でも、それならば、どうして・・・
「・・・どうして思い出していないの?兄さん。」
「・・・」
「思い出したんでしょ?でもどうして思い出してくれないの?!
ねぇ、なんで?なんでっ?!」
そう言って銃を下ろし空いている手で顔を覆うロロにルルーシュは視線を向ける。
けれどロロのいっている意味がわからずルルーシュは眉を寄せるだけだった。
「どうして?兄さん!」
「俺は、お前の兄じゃない!俺の妹はナナリーだけだ!」
その言葉にヒュッとロロから息を呑む音が聞こえる。
「僕だって、兄さんの弟だ!」
「俺には妹しかいない!お前は誰だ!どうせお前は俺の監視をしていたんだろう?!
だったら教えてもらおうか。ナナリーはどこにいる!」
「違うっ!僕、は!僕・・・も・・・」
思い出して、兄さん。
皇帝からの命令だった。
獲物の弟という立場で監視をすること、それが自分に課せられたものだ。
もう一度会いたくて、だからこんな役目だって請け負ったんだ。
そうでなければこんなこと、したくなかった。
皇帝からの命令は、実の兄であるルルーシュの監視。
小さい頃は一緒に生活をしていた。
自分とナナリーは双子だった。そんな自分たちを追いかけるようにルルーシュが追いかけてくる。それが日常だった。
けれどいつだったか、そんな日常が壊された。
自分だけ、引き離された。
二人はそのままアリエスの離宮で。自分だけ、皇居の中のどこかの建物に連れて行かれた。
そこで行なわれたのはギアスの適正検査、そして実験。
無理やり契約させられるギアスを最大限に扱える者は少なく、そこで一度篩いにかけられる。
人それぞれ与えられるギアスは違っているため、特殊であればあるほど、いや、他国への潜入捜査に向いていればいるほどその研究所の中で特別視されていた。
一度そこに連れて行かれれば、元の世界には戻ることは出来なかった。
研究所自体、秘密にされているらしくあまり多くの者が出入りしていなかった。
そしてこの研究が外部に漏れぬように、自分のように連れてきた子供に関係のあるものたちにギアスで記憶操作を行なわれていた。
だからルルーシュの中にも、片割れであるナナリーの中にも、もうロロという個人は存在していなかった。
悲しかった。誰の記憶にも、自分と言う存在がいないというのは、その場に存在していないことと同じだった。
同じ記憶を共有するものがいなければ、存在を証明してもらえるわけも無く。
ロロは、存在を否定された。
ルルーシュが、ナナリーが、自分を覚えていないことはわかっていた。
だから何度も自分の中にある記憶を思い返した。
そうしなければ忘れてしまうからだ。覚えていたいと思った。自分を証明するものが、自分の記憶の中にしかないから。
もう一度あの場所に戻りたかった。
もう一度兄さんに、ナナリーに会いたかった。
どんなことにも耐えた。いつか来るチャンスを掴むために。
そしてやっと、チャンスが来たのだ。
監視一日目、久しぶりに顔を合わせる実の兄を、住まいとなっているクラブハウスの一室で待つことになっていた。
誰に断るも無く勝手に部屋に上がりこみ、堂々とソファに座って待つ。
これで本当に大丈夫なのかとロロは思っていた。けれども帰ってきたルルーシュは疑う事無く弟だと認め、自分に柔らかな笑みを浮かべて言ったのだ。
「早かったんだな、ロロ。」
その言葉が聞こえたとき、ロロは驚きのあまり言葉が出なかった。
もう一度、名を呼んでくれたこと、限りなくゼロに近い叶わない願い事だと思っていたから。
思わず溢れてしまいそうな涙を耐えるのに、必死だった。
声が震えてしまわないように耐えるのが、必死だった。
兄さん・・・
その事実がロロには嬉しかった。それが遣われていることだとしても。
欲しかったのは自分とルルーシュを繋ぐもの。
記憶なんかじゃないものが欲しかったから、それがナナリーに本来送られるものだったとしても、ルルーシュから送られたハートの形をしたロケットのストラップはその日からロロの宝物になった。
全てが自分に送られるものじゃないことはわかっていたけれど、それでもルルーシュの傍にいられることが嬉しくて、だから監視のことなど二の次だった。
そんなルルーシュの傍にいて思うのは、故意的に忘れさせられた記憶の事。
始めのうちは連鎖反応で自分の事を思い出してくれれば、と思っていた。
同じ記憶を共有して、偽りじゃなく、監視者と獲物と言う立場でなく、兄弟として『兄さん』と呼べるようになりたかった。
けれども同じ時間を共有しているうちに、このままでも良いと思うようになってしまった。
本当は思い出して欲しい、けれど思い出して欲しくない。
逆に思い出して、監視をしていることが知られた時、きっと今のように笑いかけて、名を呼んでくれることはないだろうことをロロは想像していた。
だから、思い出して欲しくないと思ってしまった。
なんて自分勝手な言い分だろう、とロロは己を笑った。
過去にかけられたギアスは強制力が強いらしく、いまだに解けていないこと、それがそう簡単に解けるとは想像しがたい。
そして、結果は・・・
「兄さん・・・思い出してはくれなかったんだね。」
最悪のパターンだった。
「そっか・・・」
どうして僕だったのだろうと思わなかったことは無かったが、こうして一年兄さんの近くにいられたことは喜ぶべきことだ。
兄さんを兄さんと呼ぶことの出来ないのなら、こうして近くにいることができないのなら、ここにいる意味もないし、監視を続けたいとも思わない。
だって、僕が監視をしていたのは、一緒に過去を思い出す可能性にかけたからだ。
兄さんに捨てられるくらいなら、僕は。
そう思ったロロは自らの米神に銃口を突きつけた。
涙が溢れる。そうしてロロは綺麗に笑った。
「さよなら・・・・ルルーシュ兄さん。」
「ロロ・・・!銃を捨てろ!」
思わずルルーシュはギアスの力を使って命令をする。
それに対してロロは動きを止めて持っていた銃をそのまま床に置く。
「っ!兄、さん?」
「ロロ・・・このっ馬鹿!なんでそんな事をしている!」
「だって・・・記憶を取り戻した兄さんの傍にいられなくなるなら、死んだほうがましだって・・・」
「だから!なんでそうなるんだ!」
「え・・・?」
「いたいのなら、いれば良い!監視・・・されるのはかなり困る。だからそれさえなければ・・・」
「どうして・・・?」
「別に、お前のその瞳を信じるだけだ。俺にはお前が言う言葉が本当かどうか判断が付かないが、お前の目が嘘をついているようには見えなかった。」
ただそれだけだ、と言って小さく微笑むとルルーシュはロロの頭に手を置いた。
「思い出す、ということをさっきからお前は口にしていたな。それはやはり俺たちは、現状以外で何か接点があったということになるんだろうな。
・・・これでも一年間、兄弟をやってきたんだ。記憶を取り戻してもその一年間を忘れることはない。もう今更お前が弟でないと言われてもそう感じられないんだ、俺には。
だから・・・お前が嫌がろうがお前は俺の大切な弟だ。大切な弟が目の前で死のうとしているのを止めない兄はいないだろう?」
「っ兄さん・・・!!」
「これから・・・何があるかわからないが、来るか?」
差し出された右手にロロは迷わず自分の右手を重ねた。