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急がなくてはならなかった。
足早に廊下を通り抜け、ルルーシュの向かった先はシュナイゼルの部屋。
「失礼します。兄上・・・」
「・・・ルルーシュ?・・・どうかしたのかい?」
入ってきたルルーシュの口調に、シュナイゼルは一瞬で兄の顔になる。
持っていた書類を机に置くと立ち上がってルルーシュを椅子に座るように勧めた。
紅茶をメイドに頼むと自分もルルーシュの反対側のソファにかけると口を開く。
「・・・レイに会っていました。それで・・・兄上、計画を前倒しにしていただけませんか?
無理を言っていることは承知です。しかしそうしなければきっと、近いうちに・・・!」
「・・・そうか、お前の勘はよく当たるからそうなんだろう。わかったよ。では、すぐに行動に移すことにしよう。」
「ありがとうございます・・・俺には出来ないことなので・・・」
「そんなことは無いだろう?お前には出来る。その結果が今なのだから。」
「いいえ、これが限界ですよ。それにこの立場にいる俺は出ない方が良いでしょう。」
「確かに今後のことを考えればそうなるだろう。しかし、だからといって自分を卑下してはならないよ?ルルーシュ。」
「はい・・・」
かけがえの無い存在 後編 1
「おはよう!」
教室に入ると真っ先に話をかけてきたのはスザクだった。
留学として日本に送られた先の家の子供だったスザクとは自分とナナリーは幼馴染だった。
一年間。期間は短かったけれど、どれもレイには本国での生活よりも鮮明に思い出せる事柄ばかりだった。
戦争がはじまってすぐに離れ離れになってしまったが、この間7年ぶりに再会した幼馴染は昔のスザクとは違っていた。
「あぁ。おはよう。スザク。」
自分も変わったのだからそれは当たり前、そう思えば気にはならなかった。
そう考えたとき、思い出したのは少し前に再開した兄弟の姿。
「今日は軍務じゃないんだな。」
「うん。最近学校に行けなかったから、上司がいって来いって。」
「そうか。」
瞳を伏せてあの日のことを思い出す。
ルルーシュは昔まま、変わったのは見た目だけで他は全く変わっていなかった。
それがレイには嬉しくて、けれどそれならば何故、と思わずにはいられなかった。
ルルーシュがトレーラーに姿を現した後、遅れてトレーラーに入ってきた騎士団の幹部たちがソファに座るゼロに話しかけた。
メンバーはルルーシュの『帝国には報告はしない』という言葉に驚いたが、すぐにあの時ルルーシュがゼロに対して叫んだ言葉と流した涙に、その言葉を信じる気持ちが芽生えていた。
「ゼロ・・・本当にあのままでいいのか?彼と協力すればすぐにでも日本は・・・!」
「・・・何を夢みたいなことを言っている。奴はブリタニアの枢機卿。歴代の枢機卿以上に人の心を掴む術に長けていると本国でも有名だ。
故にヤツは厄介な存在なんだ。お前たちもあれだけで奴を信じてしまうなど・・・奴に乗せられているぞ。」
「しかし!彼を信じても・・・!」
「この話は終わりだ。お前たちも早く家に帰れ。明日の作戦に支障がきたす。」
「・・・ゼロ。」
立ち上がり自室へと向かうゼロに今まで黙っていた藤堂が声を上げた。
「なんだ。」
「少しは、周りを信じてもいいのではないか?以前から君にはどこかそういったところがあるとは気が付いていた。
もし、お前があいつを信じることが出来たなら、俺たちのことなど気にせず、彼の手を取ればいい。」
藤堂の言葉にゼロは何も言わずに2階へとあがる。
「ルルーシュ・・・」
部屋に入ったレイは仮面を外すとそれを机の上に置き、椅子に座る。
ため息と一緒に零れるのは、自分の片割れの名前。
本当は信じたい。
それなのに、信じることが自分には出来ない。
自分が、自分たちが日本にいるということを知っているはずなのに、何もしてくれなかったこと。
枢機卿という地位にいるのなら、こうして会いに来るくらいなら、あの時何かして欲しかった。
日本が戦場になったあの時、それからその後のエリア11になった時も本国にいるルルーシュは一切何もやってはくれなかった。
この7年間何も無く、日本の上からブリタニアの色に塗りつぶされていくこの土地を見ていると、ルルーシュがやったわけではないだろうが、どうしてもルルーシュのせいにしてしまうのだ。
それに今更遅いのだと、レイは唇を噛む。
今更やってきたことが許せなかった。
どうしてもう少し早く現れてくれなかったのか。
確かに枢機卿と言う地位を使えば、すぐにでも優しい世界を手に入れることは出来る。
けれど、ルルーシュを信じて、それで裏切られたとしたら、きっと自分は立ち直れない。
日本侵略とこの7年はレイには間接的に拒絶されたような気分を感じていた。
直接いわれてしまえばきっと・・・
それだけレイの中のルルーシュは大きな存在であった。
「あ!ルルー!今日はまた会長が貯めた書類の山の整理だって!」
近くにいたシャリーはそう言葉を口にした。
「そうか。」
だから、自分は今もこんな偽名を使っている。
偽り続けることなど、あまりにも小さい頃から続けていたために、嫌悪することさえ忘れてしまった。
けれど、そんな全てが偽りの中で、何かを感じることが出来るものはたった一つ、名前だけだ。
留学と称されて日本に送られたときから自分はルルーシュと名乗り、今は身を隠すためにルルーシュの愛称であるルルと名乗る。
レイと言う名前を使えば、皇室に自分たちが生きていることがバレることは無いだろうが、あえてバレる確立が高くなる、ルルと名乗ることに決めた。
そう名乗ることで、ルルーシュを近くに感じていたいと思う自分がいる。
それだけレイの中のルルーシュという存在は大きかった。
そんな存在だからこそ、裏切られるかもしれないという未来を考えるのが怖かった。
思い出すのは本国での笑顔を浮かべるルルーシュと、騎士団のトレーラーに現れた成長したルルーシュ。
もう、信じることは出来ないんだ。
「今日は何時からだっけ?」
「もう!リヴァルは!あれだけ新聞やテレビで言っているのに、わすれたの?!」
リヴァルがそういいながら教室に入ってきた。
「だってさーよくこういうのあるから・・・何をするのか知らないし。」
「スザク君は何か聞いてる?」
「何をするのか僕は知らないんだ。軍でも、僕の上司も何するか知らないようだったし・・・」
「そっかぁ・・・」
「ほら、そろそろ行くぞ。」
レイがそう言って周りに声をかけて教室を出て講堂に向かう。
今日は普段行なわれる校長の話を聞く集会ではなく、皇室からの発表を拝聴するために集めさせられていた。
国民は皇室からの放送を拝聴しなくてはならない義務がある。
しかしそれは定期的に行なわれることではなく、今回のように数日前からテレビや新聞などで日にちを指定されそれを見ることになっている。
いつもの事ながら、今回も何を皇室から伝えられるのかブリタニア国民は知らされていない。
そんな僅かな緊張感の漂う中、講堂に設けられた大きな画面にレイは視線を向けた。
多分本国であろう大きなホールの中には多くの貴族や軍人、そして武官が立ち並び、彼らの真ん中には赤いじゅうたんが一直線に入り口まで伸びている。
舞台だけ明るく照らされ、その端には何人もの皇族たちが椅子に座っている。
バッグには国歌が流れ、順番に皇族を映し出し、最後にはいつも皇帝が立ち演説する中央を移してカメラは止まる。
周りはまだ時間にならない為、講堂は騒がしかった。そんな中、一人静かにレイが画面を見続けていることに気が付いたのか、スザクが声をかけてきた。
「ルル?大丈夫?」
「・・・あぁ、大丈夫だ。」
そうはいいながらもレイの視線がまだ画面に注がれていることに気が付いたスザクは一度レイの視線を辿って画面を見てから、もう一度声をかけた。
「ルル、大丈夫だよ。僕がナナリーも君も守るから・・・」
「・・・・・・スザク・・・」
その言葉に、そこで始めて画面からスザクに視線を移してレイは僅かに目を細めた。
「僕の力なんて、僅かかも知れないけど、でも、君たちを守りたいって気持ちは本当だ。」
「・・・」
スザクのその言葉を信じたい。けれど心のどこかで完全に信じることができずにいる。
幼馴染で自分もナナリーも大切にしてくれる。初めてナナリーを誰かに預けてもいいと思える人物、それがスザクだ。
そう思っているのにレイの中でスザクが軍に入っていたこと、そして対峙したのはゼロとしてだったが、振り払われた手がどうしても全てを信じることが出来ない、ある種の抜けないとげのようなものとして、レイの心に刺さっている。
そう考えていると画面の中に、漆黒の髪をした少年が映りこむ。
てっきり皇帝がいつものように立つのだと思っていた周りはざわめいた。
けれども少年が顔をあげ、端から端まで視線を走らせる、ただそれだけでそのざわめきは一瞬にして収まってしまう。
それから夜と夕焼けの間の色のような、濃い紫の瞳を真っ直ぐに向けて、僅かに微笑んだ。
「始めまして。私は神聖ブリタニア帝国にて、枢機卿と言う地位についております、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです。」
その顔と声に、アッシュフォード学園の講堂に、ざわめきが起きた。
その人物は自分たちの知る人物にあまりにも似ていたからだ。
誰もがレイの方を振り返り、それから画面に映るルルーシュに視線を向ける。
「ルル?!」
「え、どういうこと?!」
そう言って近くに並んでいた生徒会のメンバーがレイに声をかけるがレイはそれに構っていられるほど、余裕が無かった。
映った画面を食い入るように見つめる。
「今回、こうして集まっていただいたのは、神からのお告げをお伝えするためです。
今日ここに、神聖ブリタニア帝国第98代、ルイツ・ジ・ブリタニアに代わり、現在、神聖ブリタニア帝国宰相であるシュナイゼル・エル・ブリタニアが第99代皇帝となることを表明いたします。」
そうルルーシュが言うと、入り口から赤いじゅうたんをゆっくりと歩いて壇上に向かうシュナイゼルの姿が映し出される。
シュナイゼルはルルーシュの前まで来ると跪く。ルルーシュはそんなシュナイゼルにひとつ頷き、脇に控えていた者の持つ器からシュナイゼルの頭と胸、両手のひらに聖油を注いだ。
そのまま法衣、王杖、指輪を受け取り最後に、金と沢山の宝石で宝飾された王冠をルルーシュがそっとかぶせる。
ゆったりとした動きで立ち上がり、壇上で微笑を浮かべるシュナイゼル。
「シュナイゼルが・・・」
『オール・ハイル・ブリタニア』画面の中の貴族や軍人が声をそろえて言う言葉は何度も何度も繰り返される。
周りの生徒も先ほどまでの騒がしさはどこに言ったのか、食い入るように画面を見つめる。
あの男が皇帝から引きずり落とされた。
なんともあっけない最後を迎えた前皇帝であるルイツを思い浮かべる。
あの場に行って、殺してやろうと思っていた。それなのにまさかこんなことになるとはレイも予測していなかった。
今後どうなるのか、けれどシュナイゼルもブリタニア。きっと弱者を虐げることしかしない、差別を良しとする考えの、変わりのない世界にしかならないだろう。
そんなことをレイが思っていたそのとき、講堂の後ろの扉が勢い良く開かれた。
大きな音を立てて開かれた扉の向こうには一人の少年が立っている。
少年が一歩踏み出せば、来ている服がふわりとゆれる。
漆黒の髪を揺らして入ってきた少年をみた生徒が驚きながら少年の進む道を一人、また一人と作っていく。その先には、全く同じ風貌をした少年に行き当たる。
長いマントを揺らし、レイの目の前まで来ると、笑みを浮かべて手を差し伸べた。
「迎えに来た。」
「な・・・」
驚き、目を見開いたままのレイに困ったように笑みを浮かべるとルルーシュは持っている杖を握りなおす。
「すまない、突然こんなことをして・・・拒絶されたあの日から、考えたんだ。どうしたらいいのか・・・
もともと、この地位はレイ・・・お前とナナリーの為に手に入れたようなもの。だから最大限に使うことにしたんだ。」
「俺、たちのため・・・?」
「そうだ。俺は、お前たちをあんなふうにしたブリタニアを許しはしない!
本来この『枢機卿』には帝国内では皇帝に次ぐ地位とされているが名前だけだ。
始めは、お前の好きなようにお前の望む未来に、俺のこの地位が使えるようなら、利用してもらおうと・・・思っていた。
けど・・・C.Cが言っていたんだ。このままでは本当に取り返しの付かないことになる、と。
俺は!・・・俺は、お前を失いたくなかった。だから一番近道で、国を変えることの出来る方法を・・・それが・・・」
「私が皇帝になることだったのだよ。」
そう言って入ってきたのは、つい先ほどまで画面に映っていた、新しいブリタニアの皇帝シュナイゼル。
講堂内にいるものは驚き、そして理解した者から順々に跪く。
「シュナイ、ゼル・・・」
「ルルーシュ。先に行ってしまうなんて酷いじゃないか。」
「すみません。皇帝陛下。早くレイに合いたかったもので。」
「いや、いい。お前のその気持ち、わからないわけじゃない。」
「ありがとうございます。」
「以前から父上の政策には疑問を感じていたからね。それに、私もお前に幸せになって欲しいと思っているんだよ。」
「じゃあ・・・」
シュナイゼルの言葉に、レイは目を見開く。
会ったことなどあるはずも無かった。そんな人物からかけられた言葉なのに、そんな人物の言葉など、所詮きれいごとだといつもならば鼻で笑っているだろうに、何故か心に染み渡る。
「あぁ、すぐにでも、エリアの開放を唱えるつもりだ。弱者を虐げる世界など、要らない。」
「それに、レイのような・・・人を人として扱わない、それを当たり前のように行なうことも禁止させる。浸透させるのに、長い時間がかかるだろうが・・・必ず変えてみせる。」
「ルルーシュ・・・」
今日、初めてレイはルルーシュの瞳を真っ直ぐと見つめた。
自分よりも僅かに赤みの少ない紫の瞳がこちらに視線を向けている。
強い眼差しの向こうにはゆるぎない意志の強さを、レイは見つけた。
もう一度、信じてもいいのだろうか。
「だから・・・」
そう言って再び白い手袋に包まれた手をレイの方に向けて伸ばすルルーシュ。
ふと、黒の騎士団のトレーラーでの藤堂の言葉を思い出し、ルルーシュの手に視線を向けてから、もう一度真っ直ぐと紫の瞳を見つめ、レイは決意した。
嘘も偽りも無いこの瞳を、・・・信じよう。
ゆっくりとした動きで右手を差し出し、強く、握り締める。
するとルルーシュの空いたもう片方の手がレイの手を包み込む。
「レイ・・・ありがとう・・・・!」
搾り出すように呟いたその言葉は、近くにいたレイにしか聞こえなかっただろう。
ルルーシュは硬く閉じた瞼を開き、一度下がると、左手をレイの方へと向けて横に薙ぎ払う。
「神聖ブリタニア帝国第十二皇子レイ・ヴィ・ブリタニア。ブリタニア帝国宰相を任命する!」
「イエス・マイロード・・・」
跪いて改めて見上げるとルルーシュと目が合った。
シュナイゼルの拍手につられるようにして、その場にいた生徒たちからも拍手が起こり、いつの間にか講堂ははち切れんばかりの拍手に満たされる。
後日、シュナイゼルの言葉通り、ブリタニアの占領した植民地エリアは開放されることとなった。
その横には、枢機卿であるルルーシュと宰相であるレイが並び立ち、数々の今までに無い政策を打ち出し新たな国創りが始まった。
どれも素晴らしく、多くの国民から支持されるようになる。