どうしてこんな勘違いをしていたのかしら。
人為的破壊活動
最近は休む暇も無く戦闘続きだったな、とスザクは思った。
ランスロットが傷つくことはあまり無かったために、フクオカ以降は以前とは比べ物にならないほど、戦場に出る確率が増えた。
それは後方支援ばかりで滅多に許可が下りることが無かった特派が認められたと言うことで、喜ぶべき事と言える。
今回は内密に、とユーフェミアから呼び出しを受けていた。
呼び出されたのは政庁の屋上、エレベーターを降りればどこかの庭園のような光景が延々と広がっている。
「スザク!こちらです!」
「ユフィ・・・」
話をするのはフクオカの通信のとき以来だったが、実際面と向かって彼女に会うのはそれ以前だった気がする。
懐かしさをスザクは感じて、ユーフェミアの呼ぶ方へ歩き出した。
「今日はどうしたんで・・・どうした、の?」
思わず敬語を使おうとしたスザクは一瞬ユーフェミアに睨まれ・・・というか不満そうに見つめられ、すぐに口調を崩す。
「えぇ、忙しいとは思ったのですが・・・こういったことは早めにしておいた方が良いと思いまして。」
「今回は内密にって聞いたけど・・・」
「誰にも私と会うことは言ってませんか?」
「う、うん」
不思議そうに頷けばあからさまにホッとした表情。スザクは思わず首を傾げる。
「ユフィ・・・?」
「スザク、実はこの間のことなんですが・・・」
「この間?・・・あぁっ!」
わずかに視線を逸らすユーフェミアにスザクはこの間の通信での出来事を思い出す。
戦闘中にユーフェミアからの通信だけでも驚いたが、言われたことはそれ以上に衝撃的だった。
「それで、その、えーと・・・」
胸元の前で両手を重ねて、そわそわと体を揺らす。それから決意をしたようにスザクの方に視線を向けた。
「スザク、この間のこと…無かったことにして貰えませんか。」
「え・・・?」
「私、気がついてしまったんです。誰が本当に好きなのか。」
突然の言葉にスザクは呆然と目の前の少女を見つめる。
少しは期待していた。こんなところに呼び出されて、誰にも気づかれずに来いなどという言葉に、そして先ほどの素振り・・・
けれど彼女の口から出た言葉は全く違ったことだった。
「スザクには申し訳ありませんが、彼と重ねている部分がありました。
優しくておっちょこちょい。そしてふとした時の真剣な眼差し。
そういう人が好きなんだと勝手に納得してしまっていた。
私、恋に恋していたんだと思います。
だって、もう会えないと思っていたから・・・
けれど、久しぶりに彼に会って実は違っていたんだと感じました。
私はやっぱり彼が好き!」
そこにいるのは一人の恋する少女。思い人を思い出しているのか頬を赤く染めて瞳を優しく細めている。
スザクは彼女のこんな表情を見たことが無かった。
「あのときの事、知っているのは私とスザク、そして特派のセシルさんだけでしょう?
今なら内密に、無かったことに出来ると思ったんです。」
だからこんな方法を取らせていただきました。そう言うユーフェミアは俯いている。
確かに皇族と一般人、しかも名誉ブリタニア人であり自らの騎士。
そんな自分たちがうまくいくわけがないことは目に見えているし、ユーフェミアが反対を押し切って自分を騎士にしたのを知っているだけに、このことが露見したときはどんな批判を彼女が受けるのかと考えるとスザクはユーフェミアの言葉に頷くことしかできなかった。
しかしそうは言っても『私を好きになりなさい!』と、『そうしたら私もあなたを好きになります!』と、自分を認めてくれた人だっただけにショックは大きかった。
「自分は・・・」
長く続く沈黙経てスザクは口を開くと、今まで俯いていたユーフェミアが被せるように言葉を紡ぐ。
「それに、私たちお互いの事良く分かっていなかったし・・・」
「そんな事は・・・」
「いいえ、知らないでしょう?だって私が・・・ナンバーズを嫌いだって事。」
「え・・・」
「特にこのエリア11の・・・イレブンが嫌いなの。知っていました?スザク。」
「っ!」
「それでもあなたがいたから・・・イレブンを好きになった。だけど・・・あなたがいたから、イレブンを嫌いになった。
そしてまた、好きになったの。だって彼らは彼を大切に思ってくれる。」
「な、んで・・・」
「それに・・・気が付いたんです。彼を毎日一度は殺すあなたが嫌いだって。毎日毎日、時には一日のうちに何度も。
気がつけば彼を殺すあなたが憎くてしょうがなくなったの。
ねぇ、それなのに求められているのも、気に入らないの・・・私。
だからあなたが嫌い。
ねぇ?スザク。だから私に殺されなさい?」
どこに隠し持っていたのか、右手には短いナイフが握られていた。
「さようなら。」
振り上げたユーフェミアの瞳は混り気の無い純粋な光だけが溢れていた。
「ゼロ!」
その声がトレーラーの外から聞こえたのは日が沈むか沈まないかという頃だった。
「てめぇっ・・・!!!」
「なっ!!」
「・・・っ!」
外で警備を担当していた騎士団の一人がトレーラーの中にいるゼロと幹部に声をかける。
急いで外に出てみれば、目の前にたたずむ一人の少女の姿に息を呑んだ。
瓦礫の山をバックに立つ少女はこのエリア11の副総督ユーフェミア。それだけでも十分驚きだが、彼女の格好に誰もが声も出なかった。
慈愛の姫と称されるに値する微笑を浮かべたユーフェミアはいつもと変わりない。しかしそれは首から上だけだ。
白とピンクのドレス、それから雪のように白い肌には大量に赤が広がっている。
特に赤く染まった両手を前で合わせ、静かに立つその姿は、不気味だった。
いったいこの姫に何があったのかと、思える姿だ。
最後にトレーラーから出てきたゼロはユーフェミアの姿に思わず息を呑む。
そんなゼロの姿を見とめて、ユーフェミアは嬉しそうに口を開いた。
「ゼロ!お会いしたかった!私、あなたに謝らなくては。すみません。」
そう言って頭を下げる。そしてすぐに頭を上げると、また微笑んでしゃべり出す。
「遅くなってすみませんでした。気がつくのが遅かった。
あなたとあの人を間違えてしまうなんて!
けれど安心してください?
あなたが求め、あなたを殺す者は私が裁きを下してきました。
無償ではないという事を、その軽率な行動はきっと天国で気がつくでしょう。」
「裁、き・・・?」
ポツリと誰かが問うのに対してユーフェミアは頷く。
それからゼロが、ユーフェミアに問う。
「ユーフェミア・・・お前の騎士、枢木スザクはどうした。」
「あの人ですか?そんなの・・・」
まさか、ともう一度彼女を染める赤に誰もが視線を向ける。
「そんなの、殺してしまったに決まっているじゃない!!
だってあの人ったら、あなたのマネばっかり!
だからすっかり私も勘違いしてしまったの。なんて酷い人!
それにあの人ったら、あなたを傷つけてばっかり!なんて無神経!
そんなことにも気がつかないんだもの。あなたを傷つける人なんて大嫌い!あなたに求められるあの人なんてもっと嫌い!
ねぇ、私も仲間に入れてくれない?あなたと一緒にいたいの!」
あなたを傷つけるものは全て嫌い!
でもいいわ、それなら私が端から壊してあげるから。
だから私を求めて、ルルーシュ。