暗がりの中、何かの気配を感じて藤堂はナイトメアの置かれた倉庫に来ていた。
作戦は今日も成功し、早々に団員たちは自分の家へと帰ったものだと思っていた。
藤堂自身も帰ろうと思っていたところに、倉庫から不振な人影を見つけ、来てみたのだった。
明かりもつけずに何をしているのかと近づけば、そこにはゼロの姿がある。
ただそこにいるだけならまだしも、どこか具合が悪いのか壁に寄りかかるように座っている姿が目に入り、藤堂は慌てて近寄る。
しかし、ゼロによって拒まれ、近寄ることが出来なかった。
「おい!ゼロ?!」
「な・・・なんでも、ない。私は、大丈夫だ・・・」
肩で息をし、どこか苦しそうな様子は本人の言うような「大丈夫」なようには全く見えず思わず近づき手を貸そうとするが、それもまたゼロ本人によって拒まれる。
壁伝いに歩き出す後姿に藤堂はただ、見ているだけしか出来なかった。
痛みは強さに
その日は普段と変わりのない日だった。
いつものようにゼロの立てた作戦は完璧で、終始こちらが優位な状況で、最終的にはブリタニア軍は撤退していった。
後は騎士団のアジトへと戻るだけだった。
後をつけられたのか、そのあたりはわからなかったが、皆再び手にした勝利に緊張感が足りなくなっていたのは明らかだった。
注意力が足りず、つけられていることに気が付かなかった。
幹部しか入ることの許されないアジトの入り口で一人のブリタニア人の手によってゼロが撃たれたのだった。
しかし、ゼロを庇うようにC.Cが前に出て、全ての銃弾を受けたため、ゼロは無傷だった。
放たれたのは全部で3発。
白い服装は真っ赤に染まり、仰向けになるように地面へと倒れた。
「ゼロ!!C.C!!」
すぐに他の団員によってゼロを狙った者は殺され、周りにいた幹部たちはゼロの周りに駆けつける。
ゼロの足元には真っ赤に染まったC.Cの姿。
ピクリとも動かない少女の姿に思わずしゃがみ込み脈を調べるラクシャータ。
その一連の姿を誰もが固唾を呑んで見守る中、ポツリと呟いた者がいた。
「C・・・C・・・?」
呆然と呟いたのは、黒の騎士団リーダーのゼロ。
その声は静まり返った空間に大きく響き、思わず視線を一度C.Cからゼロへと向けた。
そこで初めて自分たちのリーダーの異変に気が付く。
「ッハァ・・・ハァ・・・」
荒い息をして胸の当たりを左手で押さえ、前のめりになる体を壁に手をついて支えている。
「ゼロ?!」
「どうしたんだ?!ゼロ!!」
「だ、いじょう・・・ぶだ・・・」
「そんなわけがないだろう!」
そう言って手を差し出した扇の手を振り払う。
そのままバランスを崩して地面に倒れこむゼロをとっさに藤堂が支えた。
「C.C!あなたそんな状態で何をやっているのよ!」
カレンのその声に皆が視線を向ければ荒い息をしながらも上半身を起こそうとしているC.Cがいた。
視線は決してゼロ以外には向けずに、ただただゼロだけを見て口を開いた。
「ゼ、ロ・・・」
「C.C!しゃべらないで!」
「私は、だい、じょうぶ・・・だっ!」
ゴホッと堰を一つして意識の飛んでしまいそうなところを必死に絶えているように見える。
「辛いのなら、目を、つぶれ・・・私は、こんなことでは・・・死なない!」
ヒューヒューと変な息遣いが不安を煽るがそんなことは彼女に関係ないのだろうか、声を上げる。
「お前は、知って、いるだろう!」
その言葉に反応するようにゼロはピクリと体を震わせ、垂れていた頭をわずかに上げ、その言葉に反応した。
「C.C・・・」
「あぁ、お前が孤独に、なろうとも、私は・・・いつまでも傍に、いる。だから・・・」
いつものように傲慢な笑みではなく、この場にいる誰も見たことの無いような柔らかい表情をゼロに向けるC.C。
後日、あれはなんだったのかと、皆の集まるソファに座らせられ、C.Cとゼロは問いただされていた。
銃弾を3発も受けたというのに以前と変わりなく動き回るC.Cとあの時の普通でないゼロの姿。
見なかったことにするには出来ない大きな問題であった。
「C.C・・・一度は心臓が止まったわよねぇ?どういうことかしらぁ?」
一番初めに口を開いたのはC.Cの体を見たラクシャータだった。
あの瞬間、ゼロに意識を向けていた為に、あの時のC.Cがそんなことになっていたことを知らなかった者たちから一瞬ざわめきが起きた。
しかしC.Cはなんでも無いことのようにいつもの態度で答える。
「あぁ。確かに心臓は一度止まったな。」
「じゃ、じゃあなんで生きてんだよ!」
「私はそういう体だからな。老いを知らない、死ねない体なのさ。」
寂しそうに笑うC.Cに誰もそれ以上のことが聞けず、誰もが口をつぐんだ。
「ゼロ・・・この事は・・・」
「あぁ、知っていた。初めて出会ったときも私はC.Cに助けられたからな。」
「それで、ゼロ・・・君の体は・・・」
「あぁ。気にするな。」
ゼロは心配する扇の言葉を制止させ、先ほどのC.Cと同じようにどうでも良い事のように話を終わらせようとしているのが誰から見てもわかった。
そこに思わず口を挟んだのは藤堂だった。
「・・・ゼロ、君はこの間もあんなふうになっていただろう。その時もなんでもないと言っていたな。そんなに私たちは信用ならないのか?」
「・・・そんなことは無い。」
「ならば何でも自分の中で解決しようとするな。もう少し私たちに頼ってくれ。私は、私たちは君が心配なんだ。」
「・・・」
藤堂の言葉に黙りこくるゼロにカレンが口を開いた。
「ゼロは私たちに必要な人です。けど、それはこの黒の騎士団のリーダーだからじゃない。
私たちの仲間だから・・・一人の大切な仲間だから、心配なんです。」
その言葉に誰もが頷く。ゼロはそれを見渡してから、何かを考えるように俯き加減になる。
どのくらい時間が経ったのか、とにかく長い沈黙を経て、ゼロはようやく口を開いた。
「・・・・・・・・昔、銃撃を受けたことが、あるんだ。」
そう言うと、僅かにゼロの肩が震えたのがその場にいるものにはわかった。
それに気が付いたC.Cがソファの上に置かれたゼロの手の上に己の手を重ねる。
「実際、私に当たった弾は一つも無かったが、そのせいで・・・母は殺された。
目の前で倒れた母の、体から・・・赤い、血、が・・・・血・・・広が・・・って・・・」
思い出すのか、言葉も途切れ途切れに苦しそうに荒い息遣いを繰り返し、目の前にC.Cに掴まれていない手を広げるゼロ。
震える指先に何が見えるのか、そこを凝視するように視線を外さない。
「ゼロ!・・・っもう、もう良いです!だからっ!」
ゼロの姿に耐え切れなくなったカレンが抱きつく。けれどゼロはゆっくりと首を左右に振ると息を整えるように三度呼吸を繰り返した。
「大丈夫だ・・・カレン・・・」
出た言葉は意外にも落ち着きを取り戻しており、誰もが思わずホッとする。
「・・・その時から、私は銃声と、血を見るとあんなふうになってしまうんだ・・・」
「それなのに、どうして・・・」
「それでも、どうしても手に入れたい世界があったんだ。」
そう言ったゼロの声は悲しくも、優しい声音をしていた。
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