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「ごめん!」
「どうしてそんなに泣くんだ?俺は別に気にしてなどいない。」
「でも、僕だけ・・・」
「俺は、お前が俺でなくてよかったと、思っているんだ。」
「だけど・・・!」
「こうして会いに来てくれる、それだけで十分だよ。」
そうやって笑った君の笑顔は忘れない。
かけがえの無い存在 前編
「そんな!・・・まさか!」
突然そうした叫び声が一人の少年からあがる。
何事かと、テーブルを囲んでいた者たちが怪訝そうに視線を送れば近くにいた第二皇子シュナイゼルが手のひらをひらりと上げて微笑む。
「気にしないでくれ。託宣を受けておられるのだ。」
そういえば周りはホッとしたようにそれぞれの手元にある資料に目を通し始める。
シュナイゼルは周りの様子を確認してから、隣に座るルルーシュへと視線を向けた。
「どうかしたのかね?ルルーシュ」
「・・・兄上・・・母上が・・・身罷られました・・・!!」
「っ!!」
「そして・・・ナナリーも・・・ナナリーは・・・足に何発か銃弾を受けて・・・あと、精神的なもので目が・・・」
「ナナリーまで・・・」
「私は、僕・・・は・・・何も・・・」
椅子の手すりを強く握り締めるルルーシュの手に優しくシュナイゼルは自らの手を重ねる。
今にも泣き出してしまいそうなのを、周りの者に悟られぬように必死に耐えるルルーシュの耳元に口を寄せ、囁く。
「ルルーシュ、今すぐ行っておいで。ここのことは気にすることはない。私一人で大丈夫だ。」
「兄上・・・」
シュナイゼルの言葉に思わずルルーシュは視線を向けた。兄の微笑む顔を呆然と眺めてから数秒、決意をしたようにルルーシュは立ち上がる。
「すみません、少し用事が出来てしまいましたので私はこれで。」
「猊下!」
「後のことはシュナイゼル殿下に。」
呼び止める声を背にルルーシュは部屋を後にした。
赤い絨毯の敷かれた長い廊下を歩きながら、ルルーシュは声を抑えて話しかける。
「C.C!どういうことだ!・・・・・・・どうして・・・」
けれどもそれに答えるものは誰もいない。
通路の両脇で誰もがルルーシュに向かって礼を取るが、そんな貴族達に視線も向けず、自らの纏う長いローブが翻るのも気にせず、ただただ前へと突き進む。
「・・・・・なんだって?・・・日本に・・・?」
そこで初めて足を止め、愕然とした表情で足元を見つめた。
「そんな・・・」
遅かったと、ルルーシュは硬く目を閉じた。
大きな広間には皇帝が玉座に座り周りには多くの皇族、貴族が立ち並んでいた。
赤い絨毯の上を歩き、数段上に座る皇帝に視線を向け、ルルーシュは口を開いた。
「皇帝陛下。お聞きしたいことがあります。」
「・・・なんだ?」
「私と妹、ナナリーが日本へ留学、とは本当でしょうか?」
「先ほど決まった決定事項だ。」
それが何か、といった視線を向ける皇帝にルルーシュは眉間に皴を寄せて、そうですか。と静かに言葉を吐いた。
それから立ち上がると周りに立つものへと視線を向けて、口を開いた。
「今すぐ下がりなさい。」
それだけ言うと、また皇帝へと視線を向けるルルーシュ。
その言葉を受けてその場にいる全ての者が礼をして下がった。それを確認してすぐに、ルルーシュは再び口を開く。
「どういうことなのでしょうか、皇帝陛下。」
「どうもこうも、これは決まったことだ。」
「私とナナリーが・・・ではなく、レイとナナリーが・・・と言うことで間違いは無いのでしょう?」
「さすがだな。ルルーシュ。気が付いていたか。」
あやつの存在に。そう言ってにやりと笑う皇帝に、ルルーシュは嫌そうに目を細めた。
「・・・えぇ。皇帝陛下は厄介払いをされるおつもりですか?
今回の件はテロに見せかけた暗殺です。ナナリーはそのせいで・・・!それにレイの事も、私の後に生まれたというだけではありませんか!」
「弱者はこのブリタニアには必要ない。それに神の子は二人も要らぬ。」
「・・・っ!」
「今回は日本へ留学としてレイをお前の影武者として行かせる。話は以上だ。」
「・・・失礼、しました・・・」
その足でルルーシュは自分の住まいになっている神殿に向かうのではなく、そのまま寂れた塔へと入っていく。
いつもよりも足早に階段を駆け下りる。
一つの広がった空間に、彼はいた。
「レイ・・・」
そう呼べば、ベッドの上で起き上がる気配がした。
「ルルーシュ!来てくれたんだ。」
そう言って立ち上がりルルーシュに近寄ってきた人物は、まるで鏡を通して見たような程にルルーシュにそっくりな少年だった。
背丈も、顔立ちも、声音すら同じで、並んでいたら見分けがつかないほどだ。
唯一違っている所として上げられるとしたら、着ているものと瞳の色ぐらいだろう。それ位変わりがなかった。
「どうしたんだ?こんな時間に来るなんて・・・」
「ごめん!」
「え・・・?」
「僕・・・何も出来なかった・・・レイとナナリーの為に・・・何も・・・」
「ルルーシュ?どうかしたのか?何があった?」
「・・・実は、日本に留学させられるんだ。」
「・・・え?」
「君と、ナナリーの二人が・・・」
「・・・ルルーシュは・・・?」
「僕は・・・僕の代わりに、レイが行くことになってしまった・・・」
「そうか・・・」
「ごめん!」
「どうしてそんなに泣くんだ?俺は別に気にしてなどいない。」
「でも、僕だけ・・・」
「俺は、お前が俺でなくてよかったと、思っているんだ。」
「だけど・・・!」
「それに、初めて外に出ることが出来るんだ。だからルルーシュはそんなに気を落とすな。」
明るく笑うレイ。初めてレイに会ったときと同じ光景に、ルルーシュは涙が溢れた。
「ねぇ、C.C・・・」
「なんだ?」
そう呼べば、一人の少女がルルーシュの背後に現れた。
普段ルルーシュが使っている部屋は神殿内にある。
ベッドの上で蹲るルルーシュの隣に、若草色の髪を背中に垂らし、金の瞳を細めてC.Cと呼ばれた少女は座った。
「どうして、僕が先に生まれてしまったんだろう。」
だって力は平等に、分け与えられている・・・僕と、レイに。そういうと膝に顔を埋める。
そんなルルーシュの頭をC.Cが優しく撫でる。
その力こそ、ルルーシュが猊下と呼ばれる所以であり、彼女こそが、その神にあたる存在であった。
ブリタニアには稀に巫女として神と話をすることが出来、神の姿を見ることが出来、そして神の力を借りることが出来る者が生まれてくる。
ブリタニアでは、その力を持つものは珍しく、滅多に生まれることの無い存在であった。
ゆえに、その希少な存在は唯一神の言葉を受け取ることが出来る存在として、皇帝の座に一番近い『枢機卿猊下』と呼ばれていた。
生まれたときから与えられるもの。しかし希少なせいか、幼い頃から神殿に匿われ、親と切り離される。そのためルルーシュは母マリアンヌと妹ナナリーに会うことはあまり無かった。
レイとルルーシュは双子だった。
力は平等に、二人に与えられていたが、双子は災いが起きると言い伝えられており、先に生まれたルルーシュが神の子として扱われ、レイはもしもの時の身代わりとして牢屋に入れられていた。
ルルーシュは早くから自分に片割れがいることに気が付いていた。
知っていたわけではなく、なんとなく、感じていた。そこでルルーシュはC.C探すように頼んで、ようやく見つけた場所は、寂れた塔の中だった。
「レイ・・・」
レイの笑顔が脳裏にチラつく。
「C.C」
「なんだ?」
「レイの傍にいてあげて。レイについていって・・・お願い。」
「・・・お願いか・・・わかった。なら、偶にお前にあいつがどうしているか知らせてやろう。」
「本当?ありがとう、C.C!」
C.Cにそう言う事しかルルーシュには出来ず、他に何も出来ないままレイとナナリーは日本へ留学に行ってしまった。
レイがルルーシュとして留学へ行っているので神殿から出ることを皇帝から禁じられていた。元々枢機卿としての仕事は殆どが神への祈りと託宣を受け取ることだった為に特に問題は無かった。
それにC.Cからの報告を聞くという楽しみがあったため、神殿の外に出られなくても気にはしなかった。
けれどいつからだったか、ルルーシュがC.Cに話しかけても全く反応を返してこなくなった。
それが1カ月、2ヶ月、そして3ヶ月たったある日、V.Vがルルーシュの目の前に現れた。
「皇帝が呼んでるよ。」
ルルーシュは急いで玉座の間にいる皇帝のところへ急いだ。
いつもなら溢れかえっているはずの皇族や貴族の姿はなく、玉座に皇帝が座っているのみだった。
「皇帝、陛下・・・いったい何が・・・?」
「日本へ総攻撃の命を出した。」
「なっ!あそこには、ナナリーが!レイがっ!」
「すでに二人は生きてはおらぬ。」
「そ、んな・・・」
「お前は留学から開戦前に本国に戻ったということになっておる。」
「っ!」
もう話すことは無いと、皇帝の視線はすでにルルーシュから外れていた。
ルルーシュは整理の付かない頭で呆然としながら玉座の間から下がる。
以前と変わらず、廊下を歩けばルルーシュの姿を見とめた貴族が礼を取るがルルーシュにはそうしたものに構っているほど心に余裕は無かった。
レイと、ナナリーが・・・死んだ?
そんな・・・そうだ、C.Cは?!
「C.C!聞こえないのか?!・・・・C.C!!今、何をしているんだよ!」
やはり呼びかけにもこたえる気配すらなくルルーシュは小さく舌打ちをした。
ナナリー・・・
レイ・・・!
もう一度君に会いたい・・・