04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
かけがえの無い存在 中編
広い部屋の真ん中に置かれた細長く作られた机の、一番扉から遠い席に座るのは、漆黒の髪をした少年。
その深い色合いの紫の瞳を次から次へと現れる資料の映るパソコンの画面に注いでいる。
少年、ルルーシュの隣に座るのは淡い金色の髪を持つ青年、ルルーシュの兄で名をシュナイゼルと言う。
「・・・では宰相閣下、この案件はこちらで。」
「イエス・マイ・ロード。
それでは猊下、次はこちらの映像をご覧下さい。」
猊下…それはルルーシュを表す敬称だった。
神の言葉を聴く者として、帝国内でも皇帝に次ぐ地位を生まれたと同時に皇帝によって授けられたもの。
本来枢機卿とは常に神殿に篭り、神への祈りを捧げる日々を送る事が殆どで、
表舞台にも立つことはあまり無いというものではあったが、結局は神と言う存在を己の手札として政に口を挟むのが常であった。
けれどもそれを自らの手で行えるものは少ない。
その地位についたものはほぼ、誰かの手によって良いように動かされてしまう者もいれば、あまりにも稚拙な行いで周りの者から潰しにかかられた者のどちらかに分かれる。
実際の枢機卿という地位はとても儚く弱いものであった。
そんな枢機卿の地位をうまく扱い、誰もが崇め心酔させるほどの存在にさせることが出来たのは長いブリタニアの歴史の中でルルーシュだけであった。
けれどそれすらも、本来ルルーシュは望んでいたものではおらず、そうした働きの背景には常にレイとナナリーの存在があった。
足は動かすことが出来ず、目も見えなくなったからと弱者として扱われ、ただの口実として送られた妹ナナリーと、
双子であったというだけで牢屋に繋がれ、日本に身代わりとして送られた自分の片割れ、レイ。
二人は何も悪くは無い。レイなんて、ただこの力を持って生まれた双子だったから。それだけだ。
そう思った瞬間、ルルーシュの背筋を何か得体の知れないものが這い上がる。そんな気持ち悪い感覚に陥り、思わずはき捨てるように呟いてしまった。
「壊れてしまえばいい。」
「・・・そしてここが・・・・・何か仰いましたか?猊下。」
「・・・いいえ、何も。シュナイゼル殿下。」
そう言ってこちらに向けてくるシュナイゼルをルルーシュは一度だけ視線を向けて、すぐにまた目の前の画面に戻した。
「・・・以上です。何かございますか?」
「いえ、このままこのプランは進めてください。」
画面から視線を外し、隣にいるシュナイゼルへとルルーシュは視線を向ける。
その瞬間から、ルルーシュとシュナイゼルの間に流れるものは、上司と部下ではなく、弟と兄に変わる。
公の場では決して昔のように呼び合うことはないが、こうして他に誰も居らず仕事の話以外の時はお互いに話し方を元に戻すのが常であった。
「そういえば知っているかい?」
「なんですか?」
「実はおもしろい物を手に入れてね。」
そういって徐にシュナイゼルがパソコンをいじるとそれをルルーシュに見えるように向きを変える。
沢山の照明が照らされる中、横一列に男女が並び、画面中央には一番手前に一人可笑しな仮面をつけた人物が立っている。
一様に黒い色を纏い、バイザーで顔を隠す。
真ん中の仮面をつけた人物が堂々とした態度と声音で人々に訴えかける演説をしている。
そして、バサリと大げさに両腕を広げ、纏うマントを揺らし、男は言った。
『我々は黒の騎士団!』
そこで画面は止まった。
「こ、れ…」
目を見張り、ルルーシュはシュナイゼルを見つめる。
その視線に小さく微笑みを浮かべてシュナイゼルはすでに冷めてしまっている紅茶に手を伸ばした。
「君が見たいかと思ってね。エリア11の映像だ。
ルルーシュもサクラダイトの世界会議に行く予定だっただろう?
ちょうどあの時行われたものだそうだよ。」
「あの時の・・・」
思い出すのは突然用事が入ってしまって、会議に遅れていくことになっていた、あの時。
会議は何日もかけて行われるほど世界にとって大切な会議だった。
「中にはユフィもいてね。
コーネリアが手を出せずにいるところに現れたそうだ。」
エリア11副総督のユーフェミアに初めだけ参加してもらい、後から合流したルルーシュがその後を引き継ぐ予定だった。
実際テロで中止になり、延期になったためにルルーシュは本国から出ることは無かった。
代わりで参加したユーフェミアは結果的に無事だったとはいえ、テロに巻き込まれるなどという体験をさせてしまったことにルルーシュは少なからず申し訳なく思っていた。
シュナイゼルが画像を巻き戻し、ゼロがアップで移るシーンで一時停止ボタンを押す。
「彼…だろうか?」
私にはわからないものでね、と困ったような表情を浮かべる。
シュナイゼルは実際にレイにあったことは無く、双子の存在を知ることになったのでさえ、宰相と言う地位を得てからだった。
宰相というのは国の裏を守り抜く必要があるため、色々なことをその頭に詰め込まれた。
正直面倒くさいものではあったけれど、そこで初めて、シュナイゼルはルルーシュが時折見せる憎しみに染まる瞳の意味を知った事は、大いに感謝するべきことでもあった。
ルルーシュはもう一度画面に映る仮面の男を凝視する。
間違いない。俺が間違えるはずが無い。
やっぱり生きていた!心の中でそう認識していくと同時に頬が嬉しさのあまり火照っていくのがわかる。
皇帝に『殺された』と言われた時は頭の中が真っ白で、何かを冷静に判断することが出来なかった。
けれど双子の神秘なのか共通する力を持つもの同士からなのか、
過去、繋がれていたレイの存在を感じることが出来たことを思い出したルルーシュは、改めて落ち着いてからレイの存在を確かめた。
ナナリーの存在はわからなかったけれどレイは確かにこの世界に存在していることを感じることが出来た。
それだけがルルーシュの希望だった。それだけが、本国で一人残されたルルーシュの糧だった。
そこで初めて、己の状況、この枢機卿という地位を最大限に利用してやろうと、思ったのだ。
レイがあんなところに閉じ込められた理由であり、レイが身代わりになった理由である。この、枢機卿と言う地位で。
「・・・シュナイゼル兄上。今日は良いものを見せて頂きありがとうございます。
生きていることは知っていましたが、どこにいるのかはわからなかったので・・・」
「では、やはり・・・」
「えぇ。彼は私の片割れ、ですよ。」
「!・・・そうか!」
「・・・ところで兄上。最近調子はどうなのですか?」
ルルーシュがシュナイゼルにそう話を振れば、いつもと変わらない笑みを浮かべる。
それだけで、ルルーシュが何を言っているのかを理解する。
「そうだね。順調に進んでいるよ。」
「そうですか。」
会話はそれだけ。ルルーシュが視線を向ければ心得ていたとでも言うようにシュナイゼルはちいさく頷く。
シュナイゼルはルルーシュが大切だった。
ルルーシュがレイを思うように、シュナイゼルもルルーシュのために自分に出来ることは、何でもしてあげたいと思っていた。
「さて、お前はどうする?」
「・・・エリア11に行ってきます。」
後は宜しくお願いします。明後日には帰ってきますので。
そう言ってルルーシュは部屋から出て行った。
初めて降り立つその土地は、他のエリアとさほど変わるところは無かったが、この地にレイがいるのかと思うと、景色の色は変わって見えた。
租界から一歩出れば荒れ果てた、いまだに復興の手が行き届かずにいる町が広がっている。
皇族専用のジェット機で降り立って早々にルルーシュは姿を晦ませて、ゲットーを一人散策していた。
アジトの場所は知らなかったけれど、双子であるレイの思考を読んで、ある程度地図を見ながら目星をつけておいたものを思い描きながら前に進む。
すると瓦礫の影に、一つのトレーラーを発見した。
ルルーシュが現れると、隠れていただろう黒い服を着た男が銃口を向けながら叫ぶ。
「貴様!何者だ!これ以上近づけばお前を撃つ!」
「なら、ゼロに会わせてくれ!」
「なっ?!」
「テメェ!何言ってやがる!」
大きな声に気が付いたのか、幹部らしきものたちがトレーラーから出てきた。
手には銃を持ち、誰もがルルーシュを不振な目で見る。
そんな中、遅れて出てきた赤い髪の少女が、大きな声を張り上げた。
「あなた・・・!ルル?!どうしてここに?!」
「カレン、知り合いなのか?」
「え、えぇ・・・クラスメイトで・・・生徒会の副会長・・・」
ルルーシュは目の前の赤い髪の、カレンと呼ばれた少女など会ったことがあるわけも無く、首をかしげた。
「・・・俺は会ったことは無い。誰だ?」
「ちょっと!何言ってるのよ!あなた、人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよね!」
「君を馬鹿にしたわけでもなく、俺は本当に君にあったことが無いんだ。そんなことよりも早くゼロに会わせてくれ。」
「じゃ、じゃ・・・私の知っている人でないのだとしたらあなたは誰よ!それにゼロに何の用よ!」
「俺はルルーシュだ。ゼロに会うために本国からやってきた。今日始めてこの地に来たんだ。君にあったことがあるわけが無い。」
冷たく言葉を口にすれば、カレンは呆然と眺めてから、呟く。
「ルル、じゃない・・・?」
「そうだと何度言えば・・・」
「おい。何の騒ぎだ。」
「ゼロ・・・」
遅れてやってきたのは黒ずくめの衣装を纏ったゼロ。皆の視線がルルーシュから一気にゼロへと向かう。
その姿にルルーシュは思わず一歩前に踏み出した。しかし足元を銃で撃たれ、その場に踏みとどまる。
「レ・・・ゼロ!やっぱり、生きて・・・いたんだな・・・!」
「何を言っている。私はお前など知らない。」
「俺にはわかるんだ。君が、君であるって・・・!」
「それよりも、あなたはどうしてこんなところに。神聖ブリタニア帝国ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア枢機卿猊下。」
「枢機卿?!」
「ブリタニア?!なんだって?!」
周りのざわめきも気にせず、ルルーシュは本国では公の場では見せることのない柔らかい笑みを浮かべてゼロに向かって声を上げる。
「本国での仕事は済ませてきた。無理を言ってこの地に来たんだ!君に、会うために。それで・・・」
「しかし、私にはあなたとお話しするようなことはありませんね。」
敬語。それはゼロからルルーシュに対する拒絶の表れ。
そのことに思い当たったルルーシュは驚き、視線を地面に落とした。
そんなルルーシュをおいてゼロは背を向けるとトレーラーに入っていってしまう。
それに気がつき、勢い良く頭を上げるとゼロに向かって叫んでいた。
「待ってくれ、ゼロっ!お願いだ!話を・・・話を聞いてくれ!!俺は、お前と一緒に!ブリタニアをっ!」
けれども無常にも扉は閉められた。
「俺を、利用してっ!ゼロっ!」
叫びはゼロには届かず、ルルーシュはそのまま地面に膝を付いた。
溢れる涙を拭う気にもなれず、静かに滑り落ち乾いた大地を濡らしていく。
そんなルルーシュに思わずカレンが声をかけた。
「・・・大丈夫・・・?」
「何があったのかと思ってきて見れば・・・ルルーシュ・・・」
いつの間にかルルーシュの周りには、騎士団メンバーによる小さな円が出来ており、それを書き分けるようにして中心にやってきたのは黄緑色の髪をした少女、C.Cだった。
「C.C・・・!どうして・・・いや、違う。」
「あなたたち・・・知り合いなの?!」
こんな場所でC.Cと会うとは思っていなかったルルーシュも驚いて名を呼ぶが、すぐに昔自分が彼女に頼んだことを思い出し、この場にいることに納得する。
日ごろゼロの愛人だと噂される少女は得体が知れず、得体が知れないがためにゼロ以外の知り合いがいるだなんて考えに行き着かなかった団員たちは二人が知り合いであることに驚く。
思わずカレンは質問してしまった。
「それはそうだ。私とこいつは・・・」
「C.C!」
一心同体なのだぞ。と言おうとしたC.Cをルルーシュが止める。それを言うことでゼロの隠す何かがバレて迷惑がかかると思ったからだ。
その考えを正確に読み取ったC.Cがすぐに頷いて話題を変える。
「わかった。それよりも、すまなかったな・・・」
その言葉に思わずルルーシュは首を振った。
すまないと思っているということは、何か事情があってのこと。
「・・・お願いは、いつまで有効なんだ?」
「私とお前なら、いつまでも。」
「そうか。」
その言葉にルルーシュは納得をして、頬を濡らす涙を袖口でふき取ると、立ち上がってC.Cと周りにいる騎士団に向かって声をかけた。
「すごく名残惜しいけど、俺はそろそろ行くよ。受け入れてもらえなくても生きている彼に会えただけで、俺は嬉しかった。
それから、俺は君たちの事を帝国に言うつもりは無い。あとゼロに言っておいて欲しい。俺はいつでも味方だと。」
微笑んで、ルルーシュはそのまま騎士団のアジトを後にした。