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自分自身はどうなってもいい。
何を言われようと、何と思われようと。
それで世界が優しくなるならば。
俺は・・・
望みのためなら
「壊す覚悟、それも自分自身すら。」
クスリと笑うルルーシュ
「それは・・・」
神楽耶が口を開いた時、通信機器の音が当たりに鳴り響いた。その場に参加している代表者たちは互いに顔を見合わせている。
いつまでも鳴り止まない音に議長である神楽耶が止めるように指示するも、代表たちの口を閉じさせるだけで音は一向に鳴り止まない。
「神楽耶殿。これは私のようです。出ても・・・?」
「・・・えぇ。しかしこちら側にも聞こえるようにしていただきたいのですが。」
その言葉にざわりと空気が揺れる。至る所からブリタニア皇帝に対する扱いが、と声が上がる事に、神楽耶は端からゆっくりと見渡して、聞かせるように声を発した。
「ルルーシュ皇帝陛下におかれましては、失礼を申し上げることをお許しください。・・・皆様、確かにブリタニアと言う国は新たな王を立て、制度も崩壊し、今生まれ変わろうとしています。長くブリタニアと言う国に支配されていた身としましては、それは快く・・・そして嬉しく思うのです。けれどもそれと同じように、支配されていた身としましては・・・もしそれが全て茶番であったならと思ってしまうのです。貴族といった特権階級の廃止。エリアの開放。即位と同時に進められた政策はこの長い歴史を塗り替えるほどの目を見張るものばかリ。そして超合衆国への参加。それは世界統一の第一歩でしょう。しかし何故いまだに皇位就かれたままか。それではブリタニア支配制度は完璧に崩れてはおりませぬ。その意味、ご理解いただけますでしょうか。」
「・・・そうですね。あなた方が信用できないと言う事、それは最もな意見です。・・・分かりました。ではそちらにも聞こえるようにさせていただきましょう。」
懐から出した通信機を少しだけ弄ってから、ルルーシュは目の前に置き口を開いた。
「・・・どうした。」
『陛下。最重要人物を確保しました。全て、陛下の予測された通りです。』
「よし、くれぐれも丁重にな。・・・それと、一緒にいるであろう学生は置いていけ。」
『イエス・ユア・マジェスティ』
兵士の声と共に切れた通信にルルーシュはもういいだろうと通信機を懐に仕舞おうとした。しかしすぐにまた違う通信が入り、仕方がなくルルーシュはボタンを押してその場に置いた。
『陛下!アバロンから緊急入電です!』
通信機からスザクの声が聞こえ、視界の端で神楽耶が瞳を大きく見開いたのが見えた。けれどそれに気がつかぬ振りをして、ルルーシュはスザクの言葉に答える。
「・・・どうした?」
『・・・帝都、ペンドラゴンに、あれがっ!』
「・・・っ!!」
しまった・・・!先手を打たれたかっ!
ルルーシュは思わず空いた右手の拳を硬く握り締めた。
この地に降り立った瞬間から一度として変わる事のなかったルルーシュの表情に変化が現れる。その事に気がついて神楽耶が声をかけた。
「・・・ルルーシュ陛下・・・?今のは・・・?」
「・・・それは答えなくてもよいことでしょう?神楽耶様。貴方に伝えなくてはならないといった強制力のあるものなど、今の私と超合衆国との間には何も無いはずです。」
「それは・・・」
『・・・陛下。・・・消失半径、約100kmフレイアによるものと思われます。それと、上空に巨大な要塞でしょうか・・・?全長3kmはあります。』
神楽耶の言葉を遮るようにして通信機器から聞こえた声は、目の前に広がる光景について述べていく。その言葉に、その通信を聞いていたものたちは皆同じように驚いた表情でルルーシュを見つめた。しかし多くの視線を受けるルルーシュは何も言わず、眉間にしわを寄せて通信機器を睨みつけるばかりである。
「いったい何が・・・?」
『やっぱり・・・』
「あぁ。」
気がつけば通信相手はスザクへと変わっており、二人の中で会話が成り立ってしまっていて何も分からず聞いているだけの神楽耶や騎士団には理解のできない事であった。
「陛下、どういうことなのですか。どうして帝都に・・・フレイアが・・・」
「・・・私にも分かりません。」
「ルルーシュ皇帝。貴方がやったのでは?」
話に割り込むように扇が口を開く。画面に映る扇の姿にチラリと視線を小さくやったルルーシュは表情を変えずにそれに答えた。
「・・・何を根拠に。何故自らそのような事をしなくてはならないのですか。」
「お前は騙す事なんか朝飯前だからなぁ!そうやって、今度は世界中の人をっ・・・!」
「やめろ!玉城!口を出すな!」
「私がいつ、あなた方や世界を騙したと・・・?私はあなた方と言葉を交わすのは初めてだったはず。こんな所で、嘘を口にする事はやめて頂きたい。」
「なっ!」
その言葉に神楽耶を始め黒の騎士団は息を呑む。その様子をルルーシュはどこか他人事のように眺めていた。
どうしてそこで息を呑む?
ゼロとして、仮面を外して少しだけなら会話はした。けれど今の自分はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。ブリタニア皇帝として彼らと会話を交わした事は無いのだ。
「・・・ところで、私はもう帰らせていただいてもよろしいですか?皆様もお聞きの通り、帝都が大変な事になっている。」
「あ・・・しかし」
『・・・皇族専用チャンネルで連絡が着ているが。』
「・・・」
神楽耶の声を遮って響いたのは女の声。皇帝に対して偉そうな物言いで質問し数名を驚かせた。それは皇帝に対しての言葉遣いのせいだからなのか、その女の声に聞き覚えがあったからなのか、人それぞれ思うところは違っていたが、そんな言葉遣いをされた皇帝ルルーシュはそれに対して処罰も、そして気分すら害してはおらず、ただ口元に手を当て目を瞑り考えにふけっていた。
『どうする?』
「・・・繋いでくれ。」
『・・・他人を従えるのは気持ちがいいかい?ルルーシュ。』
「シュナイゼル・・・」
『あぁ・・・そういえば、もうルルーシュと呼んではいけなかったね。ルルーシュ陛下。・・・フレイア弾頭は全て私が回収させてもらった。』
「なっ!」
穏やかな声音でふざけて言うシュナイゼルの言葉に反応したのはルルーシュではなく同じく通信を聞いていた周りだった。
「フレイアを・・・まさか、貴方が帝都に・・・?!」
『おや、今君の周りに誰かいるのかい?』
テレビ中継で知っているくせに・・・とルルーシュは僅かにシュナイゼルの声が聞こえる通信機を睨みつけ、余計な口を出すなと口を挟んだ神楽耶を睨み付けた。
「わざわざ聞くまでも無く、貴方は知っているはずです。それで、貴方はブリタニア皇帝に弓を引くと。」
『残念だが、私は君を皇帝と認めていない。』
「なるほど。・・・皇帝にふさわしいのは自分だと・・・?」
『いいや、違うな。間違っているよ、ルルーシュ。ブリタニアの皇帝に相応しいのは、彼女だ。』
「・・・?」
『・・・お兄様、スザクさん。』
「・・・っ!!」
小さな間があり、聞こえたのはすでにこの世にいないはずの愛しの妹の声。声をかけらたルルーシュと、スザクは息を呑む。
どうして、何故生きているのか。そんな事を考える前にルルーシュは彼女の名を呼んでいた。
「ナ、ナナリー・・・?」
『えぇ。』
見開いた瞳はそらされること無く通信機へと注がれる。
「・・・生きて・・・」
『えぇ、私は生きてシュナイゼル義兄様と一緒に・・・』
「ナナリー・・・元気かい?どこか怪我とかしていないかい?」
「はい、大丈夫です。」
「そうか、よかった。」
浮かべるのは優しい笑み。頬を伝うのは一筋の涙。
あまりの穏やかな声にその笑みにその涙に、それを聞いていた者たち・・・特に黒の騎士団メンバーはそんなルルーシュの姿に驚いた。
ゼロであった時しか知らない彼らは、顔を見た事は一度きりだったが声は何度も聞いていた。けれど仮面の下からそんな声を聞いた事は無かった。
だから余計に驚く。彼にそんな温かみのある声が出せるという事に。
『・・・私は、お二人の敵です。』
「え・・・」
『私は、お二人の考えに賛同はできません。お二人の行動で私には、優しい世界ができるようになるとは思えません。ですから、私はお二人の敵です。次に会う時、会う場所は分かりませんが、その時はよろしくお願いしますね。』
「・・・そうか。」
『・・・陛下?』
ぷつりと一方的に切れた通信機器からスザクの声が聞こえる。ルルーシュはいつの間にか頭を垂らして片手を目の辺りに当てていた。
静まり返った空間にクスクスと漏れる、どこか病的なそれが溢れるのはすぐだった。
細い肩を震わせて、前のめりになるように彼は笑う。その姿に会場にいる代表たちは眉を寄せた。
『陛下』
もう一度スザクが呼ぶ。
そこで笑いは止まり、ポツリと小さく言葉を口にした。
「生きて・・・さすがはシュナイゼル。俺の事をよく理解している。」
『大丈夫、ですか?』
「あぁ。」
人前であることでルルーシュに対して敬語を使うスザク。
ナナリーが生きていた。そんな言葉でいっぱいの頭の端でスザクの不慣れな敬語にルルーシュは小さく笑った。
『陛下』
「あぁ、わかっている。」
わかっている。わかっているさ。スザク。でもナナリーが生きていたんだ。これを喜ばずしてどうしろって言うんだ。
『陛・・・ルルーシュっ!』
「・・・なんだ?スザク。何度も呼ばずとも、返事をしているだろう。」
『ナナリーが生きていた事で、本当の目的を忘れたの?』
皇帝に対して対等の口を利いたスザクけれどもルルーシュは先ほどの通信者同様、気にした素振りを見せずに口を開く。
「覚えているさ。でも・・・」
ナナリーが生きていた。それならば、彼女を活かしたものを練り直さなくては。
ルルーシュの頭の中でそれは素早く組みかえられていく。
『・・・壊すんだろう?全てを、自分すら!やるといって俺を誘ったのはお前だ。だったら最後まで遣り通せ。』
「・・・」
『守りたいと思う人すべてを守れるような世界を。その為なら、自分すら壊して手に入れる。そういったのはお前だ!』
「・・・あぁ・・・そうだな。すまない、スザク。俺はすっかり忘れていたようだ。ナナリーが生きていた事に動揺をしてしまった。ここで、足を止めることは出来ない。」
そこで顔を上げるともうそこには涙の跡は無かった。
動揺も迷いも許されない。
想いを隠して無かった事にして、自分に嘘つくことを、あの日スザクに誓ったんだ。
そうやって自分を殺してまでも手にしたい世界がある。
「すぐにペンドラゴンへ向かう。スザクはアヴァロンへ向かえ。」
『イエス・ユア・マジェスティ!』
「それでは帰らせていただきます。加入の件はまた後日と言う事で。」
そう言ってルルーシュは神楽耶の名前を呼ぶ。それに呆然としながらも拘束していた壁を取り払うように命令をし、ルルーシュの周りを囲んで壁は消え去った。
「いったい何が・・・」
この世界で起きている・・・?神楽耶の呟きにルルーシュは小さく振り返ると、悲しそうな顔で微笑んで、すぐに歩いていってしまった。