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手から伝わるもの
「まさか、ナナリーにだけは嘘をつかないよ。」
「では、何時ぞやの電話のお相手を教えていただけますか?」
そう言って手を握るためにナナリーはスザクの方へ手を伸ばした。そんなナナリーの行動からスザクは逃げるように手を引っ込めようとしたが、ナナリーの方が少しだけ動きが早かった為に捕らえられてしまった。
ナナリーに捉えられた手を無理に引き抜くことなんか出来なくて、ナナリーが空いたもう片方の手を静かに添え、優しく包み込む様子もただ見ていることしか出来なかった。
「・・・お兄様だったのではないのですか?」
「・・・」
「スザクさん、あの電話の方はどなただったのですか?」
そう言って僅かにスザクの手を撫でるような動きをしてから、ナナリーは顔を上げた。
スザクはそんなナナリーから動揺を隠すように視線を逸らす。
「・・・」
「・・・お兄さまでは、無かったんですよね。」
スザクの無言にナナリーは頷くような仕草を見せてから悲しそうに眉を寄せ自分に言い聞かせるように呟いた。
その言葉にスザクは勢いよく視線を元に戻すと笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
「・・・そう、ルルーシュじゃないんだ。」
けれどそんなスザクの様子にナナリーは小さく唇を開くとスザクに顔を向けたまま小さな声で言った。
「・・・嘘。」
「ぇ・・・」
「それは嘘。・・・嘘をつかないで下さい。」
「嘘・・・なんかついて、ないよ?」
予想外な言葉にスザクは声が裏返りそうになるのを必死に誤魔化す。
けれどスザクは己の手を包むナナリーの両手に少しだけ力が加えられたことを感じ、スザクの言葉をナナリーが信じていないことを感じ取った。
「・・・私にはわかります。嘘だって。だって一瞬震えたでしょう?」
「・・・。」
「と、いうことはお兄様は・・・見つかったんですね!行方不明っていうお話だったから心配していたんです!」
嬉しそうに言葉を弾ませるナナリーの姿にスザクはホッとし、緊張で強張っていた表情も自然に笑みが作れるようになって初めていつも通りの声音でナナリーに言葉を返した。
「あ、うん・・・ごめんね!本当は見つけたんだ・・・だけどルルーシュ・・・一年前のブラックリベリオンの辺りから記憶無いみたいで・・・ナナリーの事も、その、忘れてしまっているって言うか・・・だから・・・なんて言えばいいのかわからなくて・・・だから・・・」
「・・・また嘘。」
「っ!」
ナナリーの先ほどまでの弾んだ声と一転して低く抑えられた声にスザクはビクリと体を跳ねさせた。
「スザクさんは嘘が下手ですね。本当は初めから知っていたのではないですか?」
「・・・ごめん、皇帝陛下から口止めをされていて・・・」
ここで『皇帝から口止めをされていた』という言葉を口にする自分は酷くずるい人間だとスザク思った。
この言葉を言えばナナリーでもそれ以上追求してこれないことをわかっていての言葉。
これ以上詮索されたくなかった。これ以上は、彼女に聞かせたくないことがあるから。
「・・・そうですか・・・それではしかたがありませんね。」
「うん、ごめんね。ナナリー・・・」
「・・・でもそうしたらどうしてスザクさんはそんなお兄様との電話を私に取り次いでくれたのですか?」
「あ・・・それは・・・ルルーシュがナナリーと話せば記憶が戻るかと思ったんだ。僕と話しても戻らなかった記憶だけど、妹のナナリーならって!」
「そうですか・・・でもおかしいですね。」
「え・・・?何が・・・」
「皇帝陛下から口止めをされているのに、電話を繋ごうとするなんて。だって、スザクさん、私にお兄様が生きていることすらも隠そうとしていたのに、そんな私とお兄様を会話させようとするなんて。どうしてですか?私と話をすることで記憶が戻るかも知れないから取り次いだなんて、嘘ですね。」
「そ、んな・・・違うよ、ナナリー!僕は、本当に・・・」
「どんなに言葉を紡ごうが、嘘をついていることはすぐにわかってしまうんですよ?」
クスクスとナナリーは笑ってスザクを見上げる。そしてふと、笑みを解いて小さく首をかしげた。
「そういえばスザクさん。もう一つ聞きたいことがあったんです。」
「・・・何・・・?」
ナナリーの言葉に今度は何を聞かれるのかと、スザクは目の前の少女を見つめる。
「厳重に保管されていた場所から、あるものを持ち出したそうですね。」
「え・・・?」
「あれはいけないものだと、そういうことであの研究室に保管されていたのですが・・・」
「・・・」
「・・・それで何か楽しいものでも見れましたか?あぁ・・・違いますね、何か良いことでも聞けましたか?」
「・・・!」
「私、知っているんですよ?カレンさんにあれを使おうとした事。スザクさん。捕虜にそういったことをしていいなんて私、言ってないですよね?」
「でも、彼女は黒の騎士団の一員だ!彼女からゼロのことを聞き出さないとっ!あいつのせいでっ・・・!」
「それで聞き出すためにリフレインを使いますか?過程が大切だと良いながら、結局は結果しか見ていないじゃないですか。」
「でも、ナナリー!・・・シャリーはっ!」
「スザクさん。私は先ほども言いましたが、そんな事をしていいなど、言った覚えは無いんですよ?それなのに、捕虜にリフレインを使おうなど。」
「ナナリー!・・・ナナリー、君に、これは使いたくなかったけれど、僕はナイトオブラウンズだ。皇帝陛下から一連のことを任されこの地に来ている。だから、僕の命令に従ってもらう。」
「・・・スザクさん。貴方は本当に・・・」
そこで言葉を切ってため息をつくとナナリーはスザクの手を離す。
「何を勘違いしているのか分かりませんが、一度他のラウンズの方々に聞いてみたほうがよろしいかと思います。この地に来たからといって、貴方が皇帝陛下の言葉でエリア11に配属されたブリタニア軍を動かすことが出来るのは、ゼロと対峙した時のみ。それ以外は私の護衛だったはず。騎士団の一員だからといって勝手にカレンさんにリフレインを使うことなど、貴方の許された権限の中にはありません。」
「なっ!でも彼女は黒の騎士団だ!ゼロに関係する事に当てはまるはずだ!」
「確かにカレンさんは黒の騎士団に関係するでしょう。けれど、だからといって貴方のやり方は許すことが出来ません。本来ならば決められた処罰を行なわなくてはなりませんが貴方はラウンズ。数日間の軟禁といたしましょう。」
「そんな、ナナリー!どうして!」
「どうして?それが分かりませんか?ではそれを考える時間だと思ってください。あぁ、お部屋の中を自由に歩き回っても構いませんが、窓から逃げるなどという行動は起さないで下さいね?軟禁だけでは済まなくなりますから。」
「ナナリー!」
ナナリーは部屋の入り口を守る軍人に話しかけようと入り口の方へ車椅子を動かした。
「あぁ、それと・・・スザクさんはお兄様がシャーリーさんを殺したと思っているようですが・・・」
「・・・っ!ど、して・・・」
スザクは思わず自分は何も漏らしていないというように口元を手で覆った。何も言っていないはずなのに、ナナリーは知っていた。自分が、そう思っていることを。
ナナリーはただ車椅子を止めただけで振り返らずに、言葉を続ける。
「私は違うと思います。」
「なんで、そんなこと・・・!」
スザクはナナリーの言葉が信じられず、目を見開く。あいつは簡単に義妹を殺せる奴なんだ!
口をついて出てきそうになるのを必死に思いとどまらせる。
「ではどうして、スザクさんは分からないのですか?そんなの、手を握らずとも分かること。それをどうしてあんなに近くにいたスザクさんが分からないのですか?」
人の心の奥底にある嘘を見抜くよりも簡単だと、ナナリーは笑う。
「おかしいですね、誰よりも仲の良いお友達だったはずなのに。」